著者
張 起灌 Kigwon CHANG
出版者
大手前大学
雑誌
大手前大学人文科学部論集 = Otemae journal of humanities (ISSN:13462105)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.A61-A76, 2006-03-31

17世紀以後の韓国社会、当時の朝鮮王朝は、都市の発達に伴って近代的な初期資本主義社会へと徐々に移行していく。朝鮮王朝において封建社会の基盤を成していた身分制度と地主制度を中心に、その崩壊の過程について考察する。また朝鮮時代後期の社会変動に伴い、伝統仮面劇「タルチュム」の世界にどのような変化が生じたかを分析する。厳格な身分制度のもと長い間抑圧されていた民衆意識は、封建社会の解体とともに目覚め、成長していく。その過程でタルチュムの世界においても、地域限定的・閉鎖的な構造を持つ農村型タルチュムから、演戯地域や参加者の面で開放的な構造を持つ都市型タルチュムへと変貌していくことになる。つまりタルチュムは農村の祭儀から民衆芸能へと変容し、現在のタルチュムとほぼ同一の形態を持つ「都市タルチュム」が成立するのである。
著者
張 起權 Kigwon CHANG
出版者
大手前大学
雑誌
大手前大学論集 = Otemae Journal (ISSN:1882644X)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.55-70, 2012-03-31

朝鮮王朝後期の朝鮮半島では、増大していく社会的混乱の中で、封建社会の基盤を成していた厳格な身分制度にも次第に変化が生じる。文化・芸術的な分野においても実学思想の動きがあらわれるが、特に文学においては、既存の理想主義的な風流文学の流れに反し、実生活を表現し、また批判する風刺文学が出現する。当代の風刺文学の中でも、仮面劇「タルチュム」にみられる風刺は最も痛烈で、批判精神に満ち溢れている。タルチュムは民衆によって生まれた芸術であり、その中には当時の民衆の主な関心事がそのまま描かれている。とりわけ階層間の対立問題と藤構造が浮き彫りにされ、支配層への批判がタルチュムという喜劇を通して表出されている。タルチュムの中には、「狂言」の太郎冠者のような、喜劇中の下男像の典型である「マルトゥギ」が登場する。お調子者で反骨的なマルトゥギによって、主である「両班(ヤンバン)」は弱点を突かれては嘲弄され、風刺の槍玉にあげられる。諧謔に富んだ風刺により、両班の掲げる地位や学識、道徳の矛盾に対して疑問を投げかけ、愉快な笑いを飛ばす。朝鮮王朝の厳格な封建社会において、社会風刺に富んでいるタルチュムの内容は、抑圧されていた庶民の鬱憤を発散し民衆意識を高揚させることに、非常に重要な役割を果たしていたのである。