- 著者
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小暮 修三
- 出版者
- 国際日本文化研究センター
- 雑誌
- 日本研究 (ISSN:09150900)
- 巻号頁・発行日
- vol.39, pp.119-139, 2009-03
かつて、日本の沿岸各地には、裸潜水漁を行いながら生計の主要な部分を賄う人々が存在し、彼/女らは俗に「海人(アマ)」と呼ばれ、特に、男性は「海士」、女性は「海女」と表記されている。この海人の歴史は古く、『魏志倭人伝』や記紀、『万葉集』から『枕草子』に至るまで、その存在が散見される。また、海女をモチーフとした文学作品や能楽、浮世絵も数多く残されている。しかしながら、もはや裸潜水漁で生計を立てている海女の姿は、日本全国のどこにも見つけられない。 このような海女を対象とする研究は、一九三〇年代から民俗学を筆頭に、歴史学、経済地理学、医療衛生学、労働科学、社会学等において、数多く見つけ出すことができる。しかしながら、海女の表象、特にその裸体の表象に関しては、浮世絵に描かれた海女についての記述を除き、特別な関心は持たれてこなかった。 そこで、本稿では、二十世紀を通してアメリカの「科学」雑誌『ナショナル ジオグラフィック』(National Geographic)に現れた海女の姿から、性的視線を内在させるオリエンタリズムの形成について考察する。ただし、そのような過去(二十世紀)のオリエンタリズム批判「のみ」で、この考察を終わらせてしまえば、既存の反オリエンタリズム的枠組みに留まるだけの論考になってしまう。そこから、太平洋戦争前の海女に関するナショナルな表象に触れると共に、戦後の『ナショナル ジオグラフィック』における海女の表象を維持・補完していたと思われる「観光海女」の存在、及び、海女をとりまく社会環境の変化を取りあげ、オリエンタリズムと国内言説の相互関係について考察を行う。