著者
油井 大三郎(1945-)
雑誌
東京女子大学紀要論集 (ISSN:04934350)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.189-202, 0000

本稿は、近年活発になっている1960年代の社会運動当事者の証言や歴史研究を、日米で比較するとともに、証言と歴史研究の関係にも注目して考察したものである。米国では、1980年代の政治的保守化を背景に、1960年代のさまざまな社会運動の成果を否定的に解釈する動きが表面化した。それは公民権運動やベトナム反戦運動が1960年代末から「急進化」し、1970年代に入って警察などとの衝突が激しくなり、政治運動としては「挫折」した過程を重視するものであった。また、ヒッピーなどの「対抗文化」等の影響で離婚率の高まりや同性愛婚の表面化など、伝統的な家族形態の弱まりに対する危機感の表明でもあった。それに対して、1960年代の社会運動経験者からは、法的な人種平等の実現やベトナム戦争の終結、さらには1970年代に入ってからのフェミニズムや環境保護運動の高揚を重視して、「長い1960年代」の視点から運動の成果を肯定的に評価する研究が登場した。 他方、日本では、1960年代の社会運動を指導した人々が定年期を迎え、比較的自由に自らの経験を証言する著作が多数刊行されているが、実証的な歴史研究としてはまだ始まったばかりの段階にある。本稿では、1960年代の社会運動の日米比較を行う上での基本的な論点の整理を試みた。特に、学生運動を主導した米国の「ニューレフト」と日本の「新左翼」の比較とか、1960年代社会運動の時期区分、初期の「非暴力直接行動主義」から「武装自衛」などへの戦術的変化の意味、運動「急進化」の国際的契機、学生運動の衰退原因など多面的な論点について日米比較を行った。とくに、プラグマティズムの影響が強い米国では、運動の急進化後でも「エスニック・スタディーズ」やフェミニズム講座の開設など改良的な要求を実現させるなど、「文化革命」としては成果を残した面があったのに対して、マルクス主義や実存主義の影響が強かった日本の場合は、改良を軽視し、「革命」を志向した結果、大学改革などでは目立った成果がなかったこと、その上、党派間の「内ゲバ」などによって運動自体が衰退していったことを指摘し、両国間の国民文化の差にも注目して分析した。

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