- 著者
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高橋 大樹
- 出版者
- 中央大学人文科学研究所
- 雑誌
- 人文研紀要 (ISSN:02873877)
- 巻号頁・発行日
- no.78, pp.67-85, 2014
本論文では,ジェイムズ・ジョイス(James Joyce)の『ユリシーズ』(Ulysses, 1922)の第6 挿話「ハデス」("Hades")を取り上げ,そこに描かれる都市と死者の関係性について考察する。本挿話「ハデス」では,レオポルド・ブルームが友人ディグナムの葬儀に出席するため,他の出席者とともに馬車に乗り込む場面から描かれる。その馬車はダブリン市内を移動し,埋葬が行われるプロスペクト墓地へと向かう。墓地へ向かう車窓からブルームが目にするものは,ダブリンの街に住む顔見知りやさまざまなダブリンの様子である。さらに墓地ではこれまで多くのジョイス研究者がその正体を論じてきた「マッキントッシュの男」(Macintosh)として知られる謎の男をも目撃する。第6 挿話「ハデス」を死者と都市を描く文学作品の系譜において考えたとき,それまでの作品との差異はどこにあるのか,さらにブルームがどのように表象されるのか,そして読者はそれによってブルームと共同体との関係性についてどのような解釈が可能となるのかに関して考察を試みる。