- 著者
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高橋 薫
- 雑誌
- 人文研紀要 (ISSN:02873877)
- 巻号頁・発行日
- no.79, pp.1-39, 2014-09-16
かつてウェルギリウスがローマ帝国のひとびとのアイデンティティを高めるべく、トロイア戦争の落ち武者アエネアスを建国の雄としてその生涯を歌ったのに倣って、フランスでも中世以来アエネアスの同輩フランクスがフランス建国の祖であったという伝承が存在した。一六世紀最大の天才詩人ロンサールもこの主題にのっとった叙事詩の完成を目指したが、改革派対カトリック信徒という、国家のアイデンティティそのものの崩壊と当時の歴史学の発展により、所詮は虚構であるその叙事詩『ラ・フランシヤード』は完結の域には程遠い状態で出版された。世紀をあらためて一七世紀初頭、三人の韻文家がこの物語の完成を目指した。そのうちのひとり、クロード・ガルニエはロンサールの弟子を名乗って未完の叙事詩の続編を歌った。本稿で扱うのはロンサールとは異なり、より近代的な歴史記述のなかにフランクス伝承を組み入れ、いまだ尾を引く夢の国家的叙事詩の作成を目論んだ、ガルニエ以外の「遅れてきた」一六世紀詩人ふたりの作品である。本国での評価も低いため作者・作品の梗概に紙幅を割かれ、予定の枚数を大幅に超えたため複数回にわたって連続論評することをお赦しいただきたい。まず第一回はニコラ・ジュフランの作風を取り扱うものとする。