- 著者
-
松田 友義
- 出版者
- 養賢堂
- 雑誌
- 農業および園芸 (ISSN:03695247)
- 巻号頁・発行日
- vol.88, no.7, pp.720-730, 2013-07
東日本大震災直後の原発事故によって,放射性物質による食品汚染が危惧され,いわゆる「風評被害」が発生,その影響が未だに残っている。残念ながら,今のところこれを避けるための有効な手立ても見つかっていない。「風評被害」のやっかいなところは,往々にして過剰反応に繋がるというところである。一人の生産者が誤って残留基準値以上の農薬に汚染された農産物を出荷すると,殆どの場合,その生産者が所属する産地の農産物が忌避されてしまう。ときにはまるで別の産地の同じ農産物まで避けられたりする。中国産冷凍餃子事件の際に,冷凍餃子ばかりか生餃子までもが忌避され,挙げ句に冷凍食品全体の需要が冷え込んだのが良い例である。「風評被害」の対象となる産地が,県を超える地方にまで拡がったり,似たような食品にまで拡がったりするのである。放射性物質による食品汚染の「風評被害」が被災県以外に,汚染の実態に関わらず広く東北・北関東全域にまで拡大したのも,そうした消費者行動の結果といえる。通常,「風評被害」は根拠のない情報,不確かな情報に踊らされた消費者,もしくは流通関連業者が悪い,と言うようにして語られる。しかし本当に消費者が悪いのだろうか?消費者には自分が購入する商品を選択する権利がある。言葉を換えると,何を買おうと非難される筋合いではないということもできる。原子力損害賠償紛争審査会が2011年8月に公表した「東京電力株式会社福島第一,第二原子力発電所事故による原子力損害の範囲の判定等に関する中間指針」では「風評被害」は以下のように定義されている。「いわゆる風評被害については確立した定義はないものの,この中間指針で風評被害とは,報道等により広く知らされた事実によって,商品又はサービスに関する放射性物質による汚染の危険性を懸念した消費者又は取引先により当該商品又はサービスの買い控え,取引停止等をされたために生じた被害を意味するものとする」。