著者
下田 雄次
出版者
弘前大学大学院地域社会研究科
雑誌
弘前大学大学院地域社会研究科年報 (ISSN:13498282)
巻号頁・発行日
no.11, pp.132-154, 2015-03-18

日本の民俗芸能研究では、民俗芸能(以下、芸能とも記す)を地域的・社会的な文脈から切り離し「舞台上」の芸術として捉えるような考え方が長らく支配的であった。また、芸能については主にその起源や意味、伝播や系譜が問題にされてきた。このような傾向は眼前にある芸能の姿を捉えようとする視野の欠如をもたらした。民俗芸能に対するこのような観念は我が国における文化財行政の思想的基盤にも影響を与えてきた。本論は民俗芸能や日常における人々の身体の用い方に着目し、民俗芸能を日常とのつながりのなかで捉え直そうとするものであり、近代化による日本人の身体性の変容も視野に入れながら、同時代的な観点に基づいて考察を行うものである。方法としては、青森県津軽地方の岩木山南山麓に伝承される獅子踊りや、同じく当該地域で行われてきた民間の技術を題材にした。いずれの観察対象においても論者自ら参与し実体験に基づく具体的な情報の収集に努めた。また参考事例として、弘前市内に藩政時代より伝わる古流武術の学習・実践によって得られた知見なども加えた。日常における身体活動のレベルから民俗芸能を捉えてみることにより、日常の諸技能を実践する身体のあり方が芸能の所作にとっての文化的な資源になっているという構図が見えてくる。旧来の身体のあり方が残存している一方で、近代以降変容を経た我々の身体がある。そして民俗芸能自体もまた変容を経ている。芸能をとりまく現在の社会には、旧来の事象に適した身体と近代化を経験した身体という二つの身体性が混在していると考えられる。

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