- 著者
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武末 祐子
タケマツ ユウコ
TAKEMATSU YUKO
- 出版者
- 西南学院大学学術研究所
- 雑誌
- 西南学院大学フランス語フランス文学論集 (ISSN:02862409)
- 巻号頁・発行日
- vol.57, pp.47-77, 2014-02
ジョヴァンニ=バティスタ・ピラネージは、1752年(32歳)にアンジェラと結婚するまでに、『建築と透視図法、第一部』、『グロッテスキ』、『牢獄』など創作性が強いカプリッチョ作品を制作するが、同時に『古代現代のさまざまなローマの風景』(1745)、『共和政および帝政初期時代のローマの遺跡』(1748)、『ローマの景観』(1748年以降)などヴェドゥータといわれる写実的な風景版画を制作している。このヴェドゥータは、かなり正確に当時のローマの風景を描いており、幻想性、想像性が強い前者とは少し性質を異にする。1 グロテスクな美は、その幻想的性質の強さからヴェドゥータにおいては見出されないように思えるがはたしてそうであろうか。本稿では、古代ローマの廃墟が18世紀当時のローマの建築物とともに描かれているピラネージのヴェドゥータについて検証していく。実際の都市風景を描いたという『ローマの景観』において、「グロテスク風」の美がどのように描かれているのか、廃墟をモティーフにしてどのような「グロテスク風」の美的効果を生起させているのか論じてみたい。『ローマの景観』(全137作品)は、いわゆる18世紀、ピラネージの時代の絵葉書といってよく、実際ピラネージ作品のなかでも、観光客によく売れた版画である。このシリーズは、個別に販売されもしたが、ときどきアルバムにして売られ、たとえば1751年には34枚をブーシャール印刷所が発行している。当時、イタリアのヘルクラネウム(1738年発見)やポンペイ(1748年発見)、ローマなどで遺跡の発掘が進められ、古代ローマ史を学んだイギリス、フランス、ドイツなどの貴族の子息がグランドツアーでローマを訪れ、お土産に版画を買って帰ったのである。『ローマの景観』Vedute di Roma アルバムは、タイトルページに「ローマの景観、ヴェネチアの建築家、ジョヴァンニ=バティスタ・ピラネージによって描かれ彫られた」と刻まれた石板とそれを美しく飾るカルトゥーシュ、フロンティスピスには「ミネルヴァの彫刻がある廃墟のカプリッチョ」と題された『グロッテスキ』とほぼ同じ印象を喚起する作品があり、そのあとにローマ各所の風景が綴られている。まずピラネージの廃墟作品の植物的特徴、次にハイブリッド性、最後にその化石的特徴をみていきたい。