- 著者
-
緒方 あゆみ
Ayumi Ogata
- 出版者
- 同志社大学大学院総合政策科学会
- 雑誌
- 同志社政策科学研究 (ISSN:18808336)
- 巻号頁・発行日
- vol.5, no.1, pp.151-161, 2004-02
わが国の精神保健福祉施策は、1995年に制定された「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律」(以下、「精神保健福祉法」と略称する)以降、自治体レベルで積極的に展開されてきたが、長年の精神障害(者)への偏見や差別等から、他の障害者施策に比べると遅れているのが現状である。特に、精神障害者の社会復帰支援(自立生活支援および就労支援)に関する施策の遅れは深刻であり、地域住民への啓発活動をさらに推進するとともに、地域生活支援センター、授産施設、グループホーム等の社会復帰関連施設の整備が急務である。問題は、精神障害者が地域の中で安心して社会生活を営めるようになるためには、地域精神科医療と地域精神保健福祉に関する支援や施策をどのように実施し発展させるかにある。そこで本稿では、障害者福祉に関する施策の歴史が長く、精神医療においても先進国であるイギリスの取り組みを検討したい。イギリスの精神障害者施策は、病院での入院中心のケアからコミュニティケアへと移行したが、その経緯と現状については批判もあるものの、世界的にも高く評価されており、わが国の精神保健福祉施策を検討するにあたって、イギリスの動向を知ることは必要であると考える。また、イギリスの現行法である「精神保健法」(The Mental Health Act 1983)は、強制入院手続に関する規定等に関してわが国の精神保健福祉法と類似しており、また、2003年7月に国会で可決・成立したばかりの「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律」(以下、「心神喪失者等医療観察法」と略称する)は、主としてイギリスの制度を参考にして提案されたものである。本稿では、イギリスの精神保健法の概要の紹介に加え、同法を含む法律からみた精神医療史、医療制度等を中心に検討する。研究ノート