著者
松山 洋平 マツヤマ ヨウヘイ Matsuyama Yohei
出版者
同志社大学一神教学際研究センター(CISMOR)
雑誌
一神教世界 = The world of monotheistic religions (ISSN:21850380)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.65-77, 2010-02-28

本稿の目的は、アメリカ合衆国で活躍するイラク出身のウラマー、ターハー・ジャービル・アル=アルワーニーの提起する「クルアーンの主権」理論と、そこから導出される政治論の意味、及びアルワーニーの思想全体に与えるそのインパクトを考察することにある。「クルアーンの主権」理論は、神の最終啓示であるクルアーンを啓示「封緘」以降の時代を生きる人間の行為規範における最高権威として規定し、クルアーンを人間的読解によって解釈する学的努力の必要性を主張する。それは、預言の「封緘」以前に適用されていた、強制的・直接的介入に基づく「神的主権」とは性質を異にする、神の新たな主権形態である。またアルワーニーは、「クルアーンの主権」実現の手段としてジハードを定義し、独自の政治論を展開する。この「クルアーンの主権」理論は、アルワーニーが提起する諸言論の理論的素地として、また「ウラマー」が発信する新しい「形式」のイスラーム思想の萌芽として認識することが可能である。

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