著者
Herrigel Eugen 秋沢 美枝子 山田 奨治
出版者
国際日本文化研究センター
雑誌
日本研究 (ISSN:09150900)
巻号頁・発行日
vol.32, pp.285-315, 2006-03

ドイツ人哲学者オイゲン・ヘリゲル(一八八四~一九五五)がナチ時代に書いた、「国家社会主義と哲学」(一九三五)、「サムライのエトス」(一九四四)の全訳と改題である。「国家社会主義と哲学」は、ヒトラーの第三帝国下で、哲学がいかなる任務を担いうるかを論じた講演録である。ヘリゲルは、精神生活の前提条件に「血統」と「人種」を置き、新しい反実証主義の哲学者としてニーチェ(一八四四~一九〇〇)を称揚した。ニーチェの著作には「主人の精神と奴隷の精神」があるといい、その支配―被支配の関係をドイツ人とユダヤ人に移し、差別を正当化しようとした。「サムライのエトス」は、ドイツの敗色が濃くなった戦況のなかで、日本のサムライ精神を讃えた講演録である。同盟国・日本の特攻精神の背後にある武道や武士道を、知日派学者として語ったものと思われる。ここでヘリゲルが一貫して語っているのは玉砕の美学であり、『弓と禅』で彼が論じた高尚な日本文化論とは、あざやかな対照をなしている。これらの講演録の存在は、ドイツ国内でも忘れられていた。無論、これらははじめての邦訳であり、戦時下ドイツにおける日本学の研究にとって貴重な資料となるだろう。

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