著者
孫 江
出版者
国際日本文化研究センター
雑誌
日本研究 : 国際日本文化研究センター紀要
巻号頁・発行日
no.24, pp.163-199, 2002-02-28

一九三二年三月一日、関東軍によって作られた傀儡国家「満州国」が中華民国の東北地域に現れた。本稿で取り上げる満州の宗教結社在家裡(青幇)と紅卍字会は、いずれも満州社会に深く根を下ろし、「満州国」の政治統合のプロセスにおいて重要な位置を占めていた。今までの中国社会史および「満州国」の歴史に関する研究において、これらの宗教結社は見逃されており、それに関する数少ない記述も偏見に満ちたものである。在家裡と紅卍字会の実態を問わず、在家裡を「秘密結社」、紅卍字会を政治的もしくは「邪教的」存在とみなす見解は今でも依然主流的である。本稿において、このような見解に疑問を投げかけ、一時的資料に基づいて実証的考察を行った。それを通じて明らかになったように、二十世紀に入ってから満州移民社会の形成に伴って、在家裡・紅卍字会のような宗教結社や「秘密結社」が満州社会において発展し、一定の社会的影響力を持つようになった。在家裡と紅卍字会のほとんどの組織は自らの組織的優勢を獲得するために、関東軍および「満州国」に協力する道を選んだ。「満州国」側の一部の資料では、「類似宗教結社」とされる在家裡・紅卍字会などが「満州国」の政治統合の支障となったという記録が残されている。しかし、実際には、満州地域の数多くの宗教結社の活動を全体的に見ると、宗教結社の反満抗日に関与するケースは非常に少なく、しかも特定の時期(満州事変初期)、特定の地域(熱河・北満など)に限られていた。反満抗日運動に参加した在家裡と紅卍字会のメンバーは確かに存在していたが、それは在家裡と紅卍字会の組織的性質を反映するものではない。総じていえば、「満州国」支配における宗教結社の統合は、単なる「植民地」という支配空間に生じた問題ではなく、実は日本近代国家の形成と関連して、日本国内=「内地」が抱える「類似宗教」や「邪教」「迷信」といった諸問題の延長上にあるのである。

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