著者
篠原 愛人
出版者
摂南大学外国語学部「摂大人文科学」編集委員会
雑誌
摂大人文科学 = The Setsudai review of humanities and social sciences (ISSN:13419315)
巻号頁・発行日
no.23, pp.1-24, 2016-01

「クリオーリョ」という語は黒人奴隷の子孫のうち欧米で生まれ育った者を指す差別語であったが、16 世紀末から植民地生まれのスペイン人にも適用され始めた。当初は主に教会関連分野で使われたが、それは急増するクリオーリョの修道士志願者に対する危機感の表れに他ならなかった。チマルパインが『日記』で「クリオーリョ」を使うようになったのは1608 年から、つまり「史的回顧」を書く前年である。それは決して偶然ではなかった。チマルパインは立身出世を遂げたクリオーリョだけを取り上げ、「クリオーリョ」について回ったネガティブな評価を払拭し、世俗界にも適用して使用範囲を広げた。そこにはクリオーリョへのシンパシーが感じられる。また、「アメリカ生まれのスペイン人は先住民と同等」とガチュピンたちが下す評価への反論でもある。ただし、黒人のクリオーリョに対してはそのような共感はなく、メスティソに対する評価はまだ下しかねていた。クリオーリョとガチュピンの対立は19 世紀初めのメキシコ独立の一因ともなり、その萌芽は17 世紀半ばにはクリオーリョ知識人の間に見られる。いわゆるクリオーリョ愛国心がそれで、その形成と成長にはグアダルーペの聖母信仰が関わっている。先住民のチマルパインがその愛国心の先駆けとまでは言えないが、彼の「クリオーリョ」はその種子だったのかもしれない。

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