- 著者
-
藤尾 慎一郎
- 出版者
- 国立歴史民俗博物館
- 雑誌
- 国立歴史民俗博物館研究報告 (ISSN:02867400)
- 巻号頁・発行日
- no.68, pp.215-251, 1996-03
本稿は,ブリテン新石器時代の葬制研究を紹介したものである。ブリテン新石器研究は,近代考古学がはじまって以来,巨石建造物(メガリス)を研究対象にしてきた。巨石建造物が新石器時代の編年をおこなう際の指標として位置づけられてきたこともあるが,何よりもそこからみつかる大量のバラバラになった人骨が人々の関心をひきつけてきたからである。人骨がみつかるために,巨石建造物はしごく当然に墓と考えられ,なぜ,このような状況で大量の骨がみつかるのか,を考えた葬制研究が,ブリテン新石器研究の中心だったのである。1950年代までは,大量の人骨が,バラバラになった状態で建造物内につくられた石室内におかれるようになった原因をめぐり研究がすすんだが,'60年代のいわゆるプロセス期になると,このような行為には生の世界の社会組織や構成原理が反映しており,巨石建造物はモニュメント(巨石記念物)と認識されるようになる。'80年代のポスト・プロセス期になると,一転してそのような行為に,生の世界の社会組織や構成原理は反映されないとしてプロセス学派は批判され,行為自身や石室構造にこめられた象徴性の解明をめぐる研究がおこなわれる。そして現在,新石器前期は儀礼を再優先していた時代との認識と,儀礼行為自身が人々の表現戦略であったと考えられるにいたっている。縄文時代の葬墓制研究は,ここ20年ほど,親族研究・社会組織の解明を中心に進展してきた。最近わかってきたモニュメントでおこなわれていた祭りと,墓でおこなわれた死者儀礼とはどのような関係にあるのか。今後,どういう方向に向かおうとしているのか。再葬・合葬主体のブリテン前期新石期時代と一次葬・個人墓主体の縄文時代という枠組みをこえて考える。