- 著者
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山辺 昌彦
- 出版者
- 国立歴史民俗博物館
- 雑誌
- 国立歴史民俗博物館研究報告 (ISSN:02867400)
- 巻号頁・発行日
- vol.101, pp.61-72, 2003-03
この論考は、高橋峯次郎あて軍事郵便の分析の一環として、中国との戦争に参加した兵士が戦場で何をしたか、また戦争をどう考えていたかを、軍事郵便から明らかにすることが課題である。従来の高橋峯次郎あて軍事郵便の研究は、農民兵士の視点から戦場の中国農民の生活をどう見ていたかに重点が置かれていた。そのため日本の中国との戦争の遂行を担った兵士としての側面を明らかにすることが残されてきた。従来、軍事郵便は検閲のために真実を書けないと考えられてきたが、最近、軍事郵便から侵略戦争の加害の事実を明らかにする、静岡県浅羽町の軍事郵便を使った小池善之氏の研究がでている。この成果をより豊かにすることもこの論文の課題である。論文では、高橋徳松・千葉徳右衛門・菊池清右衛門・石川庄七・高橋千太郎・高橋徳兵衛・菊池八兵衛・加藤清逸の軍事郵便に書かれた戦場の様子を紹介している。戦闘の様子では、日本兵が女性・子供を含む中国住民や捕虜・敗残兵を殺し、住民の家を焼き、その財産を略奪していることが見られる。一方で蔑視していた中国軍が住民との結びつきを強め、強固に抵抗していることも見られる。また、日本軍の攻撃・爆撃により廃嘘になり死体が放置されている都市の様子、日本軍が軍事力で占領地支配を維持しており、日本軍のいいなりになる政権をつくり、植民地と同様に日本化している様子も見られる。さらに毒ガス戦の準備の様子を見られる。このように、農民兵士の軍事郵便からも、日本の中国への戦争が侵略戦争であり、それが中国の人びとに多大な災難、損害と苦痛を与えており、戦争犯罪もあったことがわかる。農民兵士は日本軍の戦争を正当化するイデオロギーを疑うことなく受け入れており、中国兵の殺戮などを面白がっており、中国人を悲惨と思い、日本人に生まれたことを喜び、戦争に負けてはいけないという考えを持っていることも、軍事郵便から読み取れる。