- 著者
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安達 雅彦
- 出版者
- 新見公立大学
- 雑誌
- 新見公立大学紀要 (ISSN:21858489)
- 巻号頁・発行日
- vol.36, pp.171-176, 2015
1979年7 月14日に,愛媛県南宇和郡城辺町の久良湾の水中から,旧日本海軍の戦闘機であった紫電改が引き上げられた。同機は,長崎県の大村基地にあった343航空隊に所属していたもので,1945年7 月24日の出撃後に帰還しなかった6 機のうちの1 機と考えられている。引き上げられた紫電改は,製造元の旧川西航空機株式会社(現在は新明和工業株式会社)で修復され,現在は愛媛県南宇和郡愛南町にある紫電改展示館で展示されている。展示されている紫電改には,兵器としての圧倒的な威圧感がある。と同時に,一人の兵士の墓標でもあることから,その佇まいは厳かである。 本曲は,引き上げられた紫電改の中で戦死した搭乗員への鎮魂歌で,三つの楽章で構成されている。作曲にあたっては,所属部隊の数字の"343"を,E 音→ F 音→ E 音に置き換えて短いモティーフとし,これを基に各フレーズを紡ぎ出した。なお,三つの楽章は,切れ目なく演奏される。 演奏の際には,一時343部隊が置かれていた松山空港・空港周辺の掩体壕跡・引き上げられた紫電改の写真を演奏者の背後に投影するとともに,波音を効果音として用いる。 本曲の初演は,2014年12月13日にまなび広場にいみで開催された照葉樹定期演奏会Vol.25で,作曲者自身により行われた。