著者
小門 穂 Minori KOKADO
出版者
神戸女学院大学女性学インスティチュート
雑誌
女性学評論 = Women's studies forum (ISSN:09136630)
巻号頁・発行日
no.30, pp.21-41, 2016-03

本論文では、フランス生命倫理法を対象とし、生殖補助医療の実施に際して、配偶子(精子・卵子)の提供者はどのような基準に従って、どのように選ばれているのかを検討する。配偶子提供の制度という「見える文化」から、フランス社会における配偶子提供者のいちづけという「見えない文化」を明らかにすることを目指す。フランスでは、産婦人科のある大学病院や公立病院に併設されているCECOS ( Centre d' Etudes de Conservation des OEufs et du Sperme : 卵子精子研究保管センター)が提供配偶子を提供者から受け入れ、保管、利用のための受け渡しを行っている。精子提供は、CECOS設立以降、CECOSの精子取り扱い基準、つづいて、1994年からは生命倫理法に基づいて設けられた配偶子の提供者に関する基準にしたがって実施される。提供者は、感染症の検査や家族歴と病歴の聴取に医学的な問題が発見されず、生殖の経験があり(実子がおり)、書面による同意を行った者である。生殖能力を損なう医療処置を受ける予定があり、後の自己の利用を目的として配偶子や生殖組織を保存する者は、生殖の経験がなくとも、保存する配偶子の一部を提供することができるようになった。SECOSの精子取り扱い基準やこれを踏襲した1994年の生命倫理法が規定していた要件ー提供者がカップルの一員であること、生殖の経験が必須であることーは、2004年と2011年の生命倫理法改正の際に提供者不足の解消を目的として緩和されてきた。提供者を、受領者からの要望はなく、議論もなされていない。提供者の要件の緩和から、提供者を確保するために、提供者の「非人間化」(南 2010)がゆるやかに進んできたことをみてとることができる。

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