- 著者
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中島 淑恵
- 出版者
- 富山大学人文学部
- 雑誌
- 富山大学人文学部紀要 (ISSN:03865975)
- 巻号頁・発行日
- no.65, pp.203-219, 2016
ニューオリンズ時代のラフカディオ・ハーンが,フランスの詩人シャルル・ボードレールの影響を強く受けていたことは明白である。とりわけ,ボードレールが晩年に試みた散文詩,すなわち詩的散文という新たな形式は,ハーン独自の表現形式の獲得に大きな影響があったものと考えられる。もちろんこのことは単なる表現形式の問題にとどまらない。『悪の華』よりはむしろ『小散文詩集』で展開される,いわゆるボードレール的夢想が,ジャーナリストとして健筆をふるっていたニューオリンズ時代のハーンの詩的夢想の展開にも大きな影響を与えているものと考えられるからである。このことは,1879年から1884年までの間に『アイテム(Item)』紙や『タイムズ・デモクラット(Times Democrat)』紙に相次いで掲載され,ハーンの死後にハトソンによってまとめられた『気まぐれ草(Fantastics and other Fancies)』に収められたハーンの詩的散文の数々によって明らかになる。これらの詩的散文のどのような点がボードレール的であり,このことが後の,とりわけ来日後のハーンの創作にどのような影響を及ぼしているかについて考察することもまた興味深いものであろうが,小論ではその出発点となった,ハーンによるものと思われるボードレールの4つの散文詩の英訳について精査を行ない,後の論考に資するための基礎固めとしようとするものである。