- 著者
-
木下 富夫
- 出版者
- 武蔵大学経済学会
- 雑誌
- 武蔵大学論集 = The journal of Musashi University (ISSN:02871181)
- 巻号頁・発行日
- vol.63, no.2, pp.11-38, 2016-01
日本の出生率は1990年に1.5を切りその水準が続いている.この結果,生産年齢労働人口は7,700万人(2015年)から6,300万人(2035年),5,300万人(2045年)へ減少すると予想されている.経済規模の縮小は財政規模を比例的に縮小させるから,公債管理政策や年金制度は大きな困難に直面することが予想される.少子化は先進国に共通した現象であり,それは人口転換(demographic transition)と呼ばれている.しかしながら出生率が1.4まで下がる国と2.0前後でとどまる国があり,その差の理由は必ずしも明確ではない.わが国が少子化を食い止めるには,出産と育児に対して強力なインセンティヴを与える制度改革が必要であろう.少子化に対して移民を受け入れてはどうかという意見がある.フランス,ドイツ,英国では移民人口は総人口の一割を超えているが,EU はその拡大とシェンゲン協定により,今やヨーロッパを包含する巨大な労働市場となっている.また米国,カナダ,オーストラリアの移民人口比率はさらに高い.移民の受け入れは文化摩擦や犯罪率の上昇などから反対意見も少なくない.とくに国籍に血統主義をとる日本では移民への抵抗感は大きい.これに関してヨーロッパ諸国の経験は大いに参考になろう.また欧州におけるユダヤ民族の歴史は,移民問題を考える上で学ぶべきものが多いであろう.JEL Classification Codes:J11, J13, J15, J18