- 著者
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角 克明
- 出版者
- 天理大学人間学部総合教育研究センター
- 雑誌
- 総合教育研究センター紀要 (ISSN:1347975X)
- 巻号頁・発行日
- no.13, pp.1-18, 2014
本稿の目的は100 年前に開業した天理軽便鉄道の旅客輸送の特色を地理学的な視点で明らかにすることにある。天理軽便鉄道は天理教教会本部へ参拝に訪れる帰参者にとって国有鉄道経由よりも短絡路線であり、乗継パターン数、所要時分、乗継時分、運賃のうえでも優位性をもっていた。また、天理軽便鉄道は旅客輸送に特化しており、全区間利用の帰参者のほか、区間利用の旅客も少なくなかった。新法隆寺、二階堂、天理は乗降客の多い主要駅であったが、国有鉄道の法隆寺や丹波市の乗降客に比べるとその規模は極めて小さかった。なお、天理軽便鉄道時代を中心に各駅の乗降には偏りがみられ、偏りが大きかった新法隆寺と安堵についてその要因を分析した。従来から説明される帰参者が復路で奈良に出る行動を実証できなかったが、新たに安堵を利用する旅客の行動が両駅の偏りを生み出した要因のひとつである可能性を示した。天理軽便鉄道には、天理教の大きな祭典時など短期間のうちに大量輸送を行う輸送力や国有鉄道のような広範囲にわたるネットワークが欠落していたため、もくろみどおりの旅客を集客しきれなかったことなどが明らかにされた。