著者
髙倉 直
出版者
養賢堂
雑誌
農業および園芸 (ISSN:03695247)
巻号頁・発行日
vol.89, no.5, pp.551-555, 2014-05

最近,世界的に都市農業が話題になり,連日のように奇抜な温室や栽培システムの紹介が園芸の電子新聞に登場している(Hortdaily 2014)。かつて,ヒートアイランド現象が顕在化し,その対策の一つとして屋上緑化が話題となり,地方都市単位での助成がかなり幅広く行われるようになり,さらに屋上緑化だけでなく,壁面緑化もとりあげられるようになったし,我が国では補助対象にはならないものの,屋上園芸がそれなりに普及しつつあるが,海外の様子は少し異なる。その大きな理由はすでに本誌でとりあげた垂直農場(Vertical Farming)という考え方の提案があったからであろう(高倉 2013)。都市農業の重要性は言うまでもない。このまま放置すると,都市の緑はますます減少し,もともと東京都など公園面積の少ない我が国の都市域では,ヒートアイランド現象も悪化することはまちがいない。さらに都市農業として食料を生産することは多くの利点をもつ。すなわち,生産地と消費地の近さからフードマイルの短縮があり,省エネルギーや汚染ガスの減少,都市から出る大量の食物残渣の堆肥化,雨水の灌水としての利用,さらに一般的な環境問題や心理的効果など,今更言うまでもないことが多い。しかし,すでに筆者が警鐘を鳴らしていたにもかかわらず,この垂直農場という概念だけで,土地生産性の高さだけを念頭に,まったく具体的な例証もないまま,安易にとびついて,1年でハイテク垂直農場の最初の倒産として大きく報じられる事例まで出てきた。天空農場(skyfarm)はカナダのウオータロー大学建築学科の大学院生が提唱したもので,トロントの約60階のビルの中で,太陽光を取り込み,バイオガスを発生させエネルギーを自給するという構想で植物だけでなく動物も飼育する内容である。このように,垂直農場だけでなく,天空(sky)や高層ビル(skycraper)農場という,驚くような構想が乱れ飛んでいる状況である。ここでは主として海外の事例を紹介しながら,都市農業での栽培環境とくに光環境の重要性についてまとめてみたい。

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