著者
髙倉 直
出版者
養賢堂
雑誌
農業および園芸 (ISSN:03695247)
巻号頁・発行日
vol.88, no.12, pp.1173-1176, 2013-12

最近,垂直農場という言葉が使われ始めた。アメリカの微生物学が専門の教授が著したVertical Farmの訳であり,訳本まで出ている。大都市の高層ビルの各層の窓からあふれんばかりの植物が生育しているバーチャルな構想図が示されており,インターネットでも大々的に宣伝されているし(Despommier 2013),似たような構想図がいろいろとあふれてくるようになった(e. g.,Gordon-graffs 2013,Skygreen 2013)。植物栽培と環境調節を専門とする研究者ならこれはおかしいと直感するのではないだろうか。立体栽培の構想ないしは実験は古くから存在する。バビロンの塔もその一つである。立体栽培は大きく分けて,3つになる。高層建物の室内に観賞用として植物を栽培する。展示会や博覧会場で,人集めのシンボルとして作られる。立体農場として作物を栽培するものであるが,問題は作物栽培であり,インターネット上ではこれらが混同されているので,注意が必要であろう。明確な過去の事例をいくつか紹介しながら,このような構想が安易に実現されないことを祈りたい。窓の限られた高層ビルより,はるかに太陽光が中に多く入る,数十メートルのタワー状の温室すなわちタワー温室がヨーロッパと我が国にかつて存在し,その末路がどうであったかを知る人が少なくなっている。タワー温室は人工光でも実験された。人工光植物工場だけでなく,太陽光利用型温室でも,植物を立体栽培した例はアメリカ,英国,我が国にもあったし,我が国では現存するものもある。その問題点を改めて紹介しよう。
著者
髙倉 直
出版者
養賢堂
雑誌
農業および園芸 (ISSN:03695247)
巻号頁・発行日
vol.89, no.5, pp.551-555, 2014-05

最近,世界的に都市農業が話題になり,連日のように奇抜な温室や栽培システムの紹介が園芸の電子新聞に登場している(Hortdaily 2014)。かつて,ヒートアイランド現象が顕在化し,その対策の一つとして屋上緑化が話題となり,地方都市単位での助成がかなり幅広く行われるようになり,さらに屋上緑化だけでなく,壁面緑化もとりあげられるようになったし,我が国では補助対象にはならないものの,屋上園芸がそれなりに普及しつつあるが,海外の様子は少し異なる。その大きな理由はすでに本誌でとりあげた垂直農場(Vertical Farming)という考え方の提案があったからであろう(高倉 2013)。都市農業の重要性は言うまでもない。このまま放置すると,都市の緑はますます減少し,もともと東京都など公園面積の少ない我が国の都市域では,ヒートアイランド現象も悪化することはまちがいない。さらに都市農業として食料を生産することは多くの利点をもつ。すなわち,生産地と消費地の近さからフードマイルの短縮があり,省エネルギーや汚染ガスの減少,都市から出る大量の食物残渣の堆肥化,雨水の灌水としての利用,さらに一般的な環境問題や心理的効果など,今更言うまでもないことが多い。しかし,すでに筆者が警鐘を鳴らしていたにもかかわらず,この垂直農場という概念だけで,土地生産性の高さだけを念頭に,まったく具体的な例証もないまま,安易にとびついて,1年でハイテク垂直農場の最初の倒産として大きく報じられる事例まで出てきた。天空農場(skyfarm)はカナダのウオータロー大学建築学科の大学院生が提唱したもので,トロントの約60階のビルの中で,太陽光を取り込み,バイオガスを発生させエネルギーを自給するという構想で植物だけでなく動物も飼育する内容である。このように,垂直農場だけでなく,天空(sky)や高層ビル(skycraper)農場という,驚くような構想が乱れ飛んでいる状況である。ここでは主として海外の事例を紹介しながら,都市農業での栽培環境とくに光環境の重要性についてまとめてみたい。
著者
髙倉 直
出版者
養賢堂
雑誌
農業および園芸 (ISSN:03695247)
巻号頁・発行日
vol.89, no.1, pp.40-43, 2014-01

最近ハウスの環境制御で,相対湿度でなく飽差(Vapor Pressure Deficit; VPD: 直訳は水蒸気圧差)が話題になることが多い。なぜなのか,その理由ははっきりしないが,相対湿度よりハウスの乾燥や湿潤の様子がわかりやすいと感じるためであろうか。ただ,一般的には相対湿度よりなじみのない専門語であり,これらの気象用語の関係もあまり理解されずに,ブームのようになっている感じもあり,ここで,これらの関係を明確にするとともに,すでに約40年も前にオランダにおいて,まだコンピュータ制御もなかった頃,飽差制御器が開発されていたことは我が国にも詳しく紹介されているので(高倉 1974a,b,c),その内容にも触れながら,飽差制御の意味と重要性を検討したい。