著者
斉藤 了文
出版者
関西大学社会学部
雑誌
関西大学社会学部紀要 = Bulletin of the Faculty of Sociology, Kansai University (ISSN:02876817)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.61-118, 2016-03

安全というのは、割と奇妙な概念である。この感覚を明らかにするために、まず安全を個人の命や生活を守ることだと、大くくりしたうえで違和感を取り出していきたい。第1節で安全に関わる思考実験をしてみる。そこでは、座敷牢、万里の長城、斜め横断、抜け道、アポロ13、高速道路、太陽という例を取り上げる。これらの例を使って、違和感を具体的に取り出し、さらに考察するべきポイントを探っていく。第2節では、安全確保のための方策の基本として、科学の方法と工学の方法というやり方を取り上げる。リスク削減のための、監視とコントロールというのが基本的な方法である。ただ、面白いことにこのような方法を使っても、リスクが完全になくなると考える人はまずいない。第3節では、第1節で例示した安全のパラドックスが生じてきたその根拠を掘り下げて、哲学的な論点を取り出すことにする。まず、私が背景として持っているリスクの歴史についての理解を提示(3.1)し、行為者と被害者の非対称性について(3.2)考察し、法人は自然人のようには統合された人格ではありえないということに関わる問題を考えていく(3.3)。その上で、人工物というものが、安全についての理解に、さらには現代の社会に与えている意義を提示しようとした(3.4)。

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