著者
新井 啓
出版者
立正大学経済学会
雑誌
経済学季報 (ISSN:02883457)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.129-150, 2010-01

本稿は,日経平均先物市場における個別証券会社の先物契約超過需要関数を計測することを目的としている.時系列データの利用により各証券会社の超過需要関数を計測する場合に問題となるのが系列相関の問題である.計量経済学の技術的な方法によれば解決可能ではあるが,モデルを改良していくと,経済理論とは無縁ではあるが統計的には申し分のない測定結果を得ることができる.これでは経済学的な意味がない.本稿では,計量経済学の技術的な方法を利用するのではなく,経済理論によって時系列のデータを扱った場合の系列相関の問題をいかにして解決していくべきかを述べる.本稿での計測式は各証券会社の先物契約保有量が日経平均先物の絶対水準で説明されるとの回帰式である.しかしこれをそのまま測定すると系列相関の問題が発生する.そのため,ある証券会社が他の証券会社がどれだけ日経平均先物のポジションを増減させるのかを知っているというゲーム理論的な状況を先物の取引者の期待の形成に取り入れる.これは各証券会社の建玉間の共変動を利用するものである.この経済理論によって導かれた計測式は,ある証券会社の先物のポジションを価格の絶対水準と大口の証券会社の建玉で説明するものである.そのため価格の絶対水準を理論的に消すことができるならば寡占市場の分析で用いられる企業者の生産量の決定式に等しい.したがって本稿の理論を発展させることができれば,金融市場におけるゲーム論的状況を分析する際にも役に立つものである.

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