著者
北原 克宣
出版者
立正大学経済学会
雑誌
経済学季報 (ISSN:02883457)
巻号頁・発行日
vol.60, no.3, pp.61-94, 2011-03

本論文は,戦前から戦後にかけての日本の食料需給政策の背景と性格に関する分析および考察を通じて,戦後日本資本主義の展開の中で食料自給に対する認識がどのように変遷してきたのかを明らかにすることを課題としたものである.この課題を明らかにするため,本論文では,まず近年における食料自給をめぐる議論について,浅川芳裕氏の近著を取り上げ批判的に検討した.そのうえで,戦前の食糧需給政策について整理し,戦前日本において食料(糧)自給が追求されたのは第二次世界大戦前と戦後の一時期に過ぎず,しかも,これが実際に達成されたのは植民地からの移入米を含めてようやく「自給」を達成した戦前の一時期に過ぎないものであることを明らかにした.戦後における食料(糧)需給政策については,当初,食糧増産政策はとられるものの,MSA協定などを通じてアメリカ余剰農産物の受け入れ体制が構築されることにより,日本は米を除く食糧の自給は放棄する方向へと進むことになった.これを決定づけたのが農業基本法であり,これ以降,日本の土地利用型畑作は壊滅的状況となり,麦類や大豆の自給率は大きく低下させることになった.その後,1980年代半ばまでは,食管制度を通じて農業・農村もかろうじて維持され,これが米過剰をもたらす要因ともなるのであるが,1985年以降,新自由主義的政策への転換の中で,さらに自給率を低める方向へ作用していった.本論文では,この段階を食糧自給放棄から食料自給放棄への転換点と捉えた.さらに,食料・農業・農村基本法の制定以降,食料・農業・農村基本計画の策定にともない食料自給率目標が設定されることになったが,それを実現できる政策が構想されているかどうかという点では疑問の残る内容にとどまっている.以上を踏まえ,本論文では,これからの食料自給のあり方について,グローバル段階における広域的再生産構造を前提としたうえで基礎的食糧の自給は目指しつつ,東アジア圏での貿易による補完的関係を構築していくなかで食料自給を達成する方向性を提起した.

言及状況

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"食料自給について語る上では,カロリーベースでの総合自給率では正確な実態を反映したものとは言えず,より実態に近い重量ベースを用いて論ずるべきであり," →自給率問題(浅川芳裕が批判されている)

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