- 著者
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牧野 悠
- 出版者
- 千葉大学大学院人文社会科学研究科
- 雑誌
- 千葉大学人文社会科学研究 (ISSN:13428403)
- 巻号頁・発行日
- no.15, pp.14-25, 2007-09
柴田錬三郎の剣戟随筆「武蔵・弁慶・狂四郎」は、発表以降、半世紀に亘り、彼の著作集に収録され続けてきた。代表作「眠狂四郎無頼控」に言及しているため、引用されることも多い本随筆であるが、その執筆方法は、先行する剣戟随筆を巧みに切り貼りし、紹介するというものであった。そこで典拠とされたのは、中里介山、直木三十五らであった。よって、本随筆中、特に弁慶に関しては、典拠としたもののバイアスがかかった描写にならざるを得なかった。また、ここでは、先輩作家の描写から、その典拠に遡り、自らのテキストに吸収する方法も活用されている。これら方法は、柴錬の初期剣豪小説作法の再現であった。したがって、本随筆は、やがて柴錬独自の方法を完成させるに至る、一種の剣戟描写修行の記として読むことが可能となるのである。また、後に発表される柴錬の、剣豪小説のキャラクターを考える上でも、武蔵・弁慶・狂四郎の三タイプの要素は、キャラクター造形上、重大な意味を持っているのである。