著者
斯日古楞
出版者
千葉大学大学院人文社会科学研究科
雑誌
千葉大学人文社会科学研究 (ISSN:18834744)
巻号頁・発行日
no.26, pp.143-158, 2013-03

「モンゴル・アム」とは、キビを加工した食物の一つである。「アム」とは「食糧」の意味である。この言葉の意味からしても、モンゴル人のアイデンティティと強く結び付いてきた食物だとわかるだろう。モンゴル人は昔から遊牧を中心とし、遊牧を損なわない程度に、ナムク・タリヤーと呼ばれる粗放農業を営んできた。モンゴル帝国の時代には、「モンゴル・アム」と「干し肉」を兵糧として用いていた。モンゴル各地域で「モンゴル・アム」は重要な食物であった。しかし、清朝中頃以降、内モンゴル東部地域は急激な開墾・農地化の流波にさらされ、モンゴル族の言語、習慣、伝統的文化もまた変化した。人びとは羊肉や牛肉を食べなくなったかわりに、豚肉や鶏肉をよく食べるようになった。日々の食事の食材生業の変化に伴い、変化せざるを得なかったことが明らかである。こうした背景を持つ内モンゴル東部地域では、モンゴル人の食糧という名前を持つ「モンゴル・アム」が食べつづけられてきた。現在、日常の食生活でも、儀礼でも「モンゴル・アム」がよく食べられ、使われている。「騎馬民族」や「北アジアの遊牧民」という従来のイメージとはかけ離れつつある「農耕モンゴル人」の食生活において「モンゴル・アム」の意義はどのようなものなのか。「モンゴル・アム」という食べ物はモンゴル人のアイデンティティとどう関わっているのか。本稿では、伝統と変容という視点から、農耕モンゴル人が伝統的モンゴル食を象徴する「モンゴル・アム」を、どのように維持しようと試みているのかについて論じる。

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