著者
井上 雅人
出版者
大阪市立大学大学院文学研究科都市文化研究センター
雑誌
都市文化研究 (ISSN:13483293)
巻号頁・発行日
no.12, pp.125-138, 2010-03

日本のファッション誌は『装苑』によってはじめられ『アンアン』によって完成された, と歴史化されつつあるようだ。それによれば『装苑』は洋裁のための雑誌であり, 『アンアン』は消費文化のための雑誌であるという。しかし, 細かく検討していくと, そこまではっきりと線を引くことはできず, 曖昧な領域があることがわかる。本稿では, 『装苑』から『アンアン』へと続くファッション誌の流れの横に別の筋道を浮かび上がらせることによって, 日本における衣服に関する雑誌と, それを取り巻く文化の重層性を明るみにすることを試みている。特に, 戦前に創刊されて, 『装苑』とは異なる高度な誌面作りを行った『ル・シャルマン』, 戦後占領期に『装苑』以外にも大量に創刊された「スタイルブック」と呼ばれる雑誌群, 1950年代に創刊されて, 洋裁学校を背後に持たずに洋裁だけに依存しない誌面作りを行い, 60年代に多くの読者を抱えた『若い女性』, といった雑誌を中心的にとりあげることによって単線的ではない歴史を描き, それぞれの時期に, 雑誌を取り巻く社会の構造が異なり, それゆえ雑誌自体の性格や位置も異なっていたことを指摘する。ファッション誌という現在通用している概念枠組みをもって歴史をさかのぼり物語ってしまうことは, かつて衣服に関する雑誌が持っていた, ファッション誌という概念の範疇には収まらない振れ幅を見逃してしまうことになる。今では忘れられた「ファッション誌」のオルタナティブをさぐることや, かつて存在した違う分類枠組みを検討することによって, 「洋裁文化」とその後の時代の連続と分断を明るみにする。

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"皮肉なことに,内容から考えると,現在の『装苑』はむしろ「ファッション誌」に,『アンアン』は「生活」に分類される""現在の『装苑』と『アンアン』がそれぞれの創刊時とまるで異なっているという事実" →ブクマ

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