著者
矢吹 まい
雑誌
表現文化
巻号頁・発行日
no.3, pp.96-111, 2008-03

なぜ人はノスタルジアに浸るのか : そもそも、ノスタルジア(nostalgia)ということばは、ギリシャ語のnostos(家へ帰る)と algia(苦しんでいる状態=苦痛)に由来している。つまり、故郷へ帰りたいと切なく恋焦がれるという意味を持つ。故国から遠く離れて、ヨーロッパのどこかの専制君主の軍隊に所属して戦っていたスイス人傭兵によく見られる「病気」として認識されていたこの言葉が、病理学的基盤から解き放たれ、いわば脱軍隊化、脱医学化するようになったのは、20世紀に入る直前のことである。ひとたび通俗的な用語法のなかに取り込まれてしまうと、もとの語義からの方向転換が著しく進み、今日では、「ノスタルジア」という言葉からホームシックそのものを連想する人は少なく、これを「病気」として捉える人もほとんどいない。それでは、我々が今日体験する「ノスタルジア」とは、一体どのようなものなのか。それを確認するために、ここではまず最初に F. デーヴィスの著作『ノスタルジアの社会学』を参考にしつつ、昨今の昭和ブームを語る上で欠かすことのできない「ノスタルジア」に関する分析を行ってみたい。

言及状況

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「なぜ今昭和に心惹かれるのか : 映画『ALWAYS 三丁目の夕日』に見る昭和ブーム」 結論ではノスタルジアの意義について論じている。 ノスタルジア産業の消費は、結局のところ単なる「逃避」に過ぎないのか。 未来のない老人は過去を懐かしむしかなく、若者は未来を夢見る。 https://t.co/Oct5hhJNm7

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