- 著者
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岩佐 壮四郎
- 出版者
- 関東学院大学[文学部]人文学会
- 雑誌
- 関東学院大学文学部紀要 (ISSN:02861216)
- 巻号頁・発行日
- no.114, pp.151-196,
島村抱月の「審美的意識の性質を論ず」(一八九四・九-一二)は、のちに日本自然主義文学運動を理論的に支え、近代劇運動にも関与していくことになる彼の活動の「理論」の基本的立脚地を示す論考である。本論では、これまで、ショーペンハウァーの「同情」理論に依拠、カント、ヒューム、シラー、ハルトマンらを引用しながら展開されるその論理が、いわゆる「現象即実在論」の枠組みに制約されながらも、当時のドイツ観念論受容の水準を大きく抜く精密さを備えていたことを指摘した。また、カント、ショーペンハウァーのみならず、バーク、ラスキン等の芸術理論を批判的に摂取して展開されるその理論に、自然主義文学運動における「観照」理論がすでに胚胎していることをT・H・グリーンの自我実現説との関係に言及しながら論述、この論自体がいわゆる没理想論争の総括の意図をもって立論されたものであることについても論及を試みた。本稿ではこれらを受け、「現象と実在」「形と想」「自然美と芸術美」等の二項対立を設定しながら展開されるその考察が、一八九〇年代から世紀転換期にかけての日本の近代文学のみならず近代芸術の「認識」の枠組みを基本において支える内実を備えていたこと、その結論が「観察」と「写生」の季節の到来をすでに示していたこと、等を論じた。