著者
島村 宣男
出版者
関東学院大学[文学部]人文学会
雑誌
関東学院大学文学部紀要 (ISSN:02861216)
巻号頁・発行日
no.109, pp.133-162, 2006

仮想された近未来の「ファシズム国家イギリス」を舞台にした大人向けのグラフィック・ノベル(劇画)の傑作に、A. Moore & D. Lloyd, V for Vendetta (1989)がある。その独特の世界観に共感をもつファンも少なくない。1980年代はMargaret Thatcherの超保守的な政権下にあって、社会全体に閉塞感の漂う時代が生んだ作品で、その下敷きになったのは、17世紀初頭の帝都ロンドンで未遂に終わった爆弾テロ事件、所謂「火薬陰謀事件」である。このグラフィック・ノベルの力強い語りの世界を、映画Matrix Trilogy(1999/ 2003)の脚本・監督・製作で広く知られるWachowski兄弟による脚本をもとに映像化したのが、Matrix三部作で撮影監督をつとめたJames McTeigueによる同名の近作(日本公開は2006年)である。この作品の特徴は、そのスタイリッシュな映像はもとより、メッセージ豊かな物語性にある。「血肉」を超える「理念」の強靭さを謳いあげ、2006年度の映画界を代表する一作となった。本稿は、このほど公刊されたシューティング・スクリプトの有意味的な台詞の分析を中心に、V for Vendettaの特異で重厚な物語世界を読み解く試論である。

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