著者
島村 宣男
出版者
関東学院大学[文学部]人文学会
雑誌
関東学院大学文学部紀要 (ISSN:02861216)
巻号頁・発行日
no.127, pp.55-80, 2012

On the release of a new foreign film in Japan, the Japanese companies go out of their way to put the original for instance, into `Japanese,' like 2001-nen: Uchuu no Tabi for Stanley Kubrick's 2001: A Space Odyssey(1968), Michi tono So-gu- for Steven Spielberg's Close Encounters of the Third Kind(1977), etc. Some titles have nicely taken root among movie-goers, others have remained odd enough for some reason or other. In recent years, the trend is to give random katakana-transcribed titles. Such meaningless Japanese titles, for what?
著者
島村 宣男
出版者
関東学院大学[文学部]人文学会
雑誌
関東学院大学文学部紀要 (ISSN:02861216)
巻号頁・発行日
no.114, pp.17-76, 2008

2008年夏、米国の映画界はファン期待の新作The Dark Knightの話題で沸騰した。この作品はグラフィック・ノベル(劇画)を原作とする新バットマン・シリーズの第一作Batman Begins(2005)の続編、監督はイギリスの俊英C. Nolan、キャストはタイトルロールのC. Bale以下、M. Caine、G. Oldman、M. Freemanといった錚々たる名優たちの続投に加え、H. Ledger、A. Eckhart、M. Gyllenhaalなど、個性豊かな演技派が競演する超大作である。多くの批評家がジャンルの枠を超えた「傑作」と絶賛するなか、The Dark Knightは7月中旬に全米公開されるや圧倒的な支持が拡がり、「全米歴代新記録 7冠」という快挙を達成した。すなわち、(1)公開劇場館数(4,366館)、(2)ミッドナイトプレヴュー興収(1,850万ドル)、(3)公開初日興収(6,716万ドル)、(4)公開週末3日間興収(1億5,841万ドル)、(5)興収2億ドル突破最短記録(5日間)、(6)興収3億ドル突破最短記録(10日間)、(7)興収4億ドル突破最短記録(18日間)がそれである。8月末現在、国内総収益(all time grosses)は5億ドルを突破して史上第二位、Titanic(1997)の最高記録6億ドルを追っている。The Dark Knightが「傑作」と評される所以は何か?完成度の高いスクリプトを通して、この叙事詩的な風格さえ漂わす「ブロックバスター」の倫理的なメッセージを読み解きながら、アメリカ的精神の在り処を探る本稿は、先考「"a guy who dresses up like a bat clearly has issues"--映画Batman Beginsの記号論」(2006)の続編でもある。
著者
島村 宣男
出版者
関東学院大学[文学部]人文学会
雑誌
関東学院大学文学部紀要 (ISSN:02861216)
巻号頁・発行日
no.117, pp.73-92, 2009

毎年の2月14日、遠く紀元3世紀の古代ローマは聖ワレンティヌス(St. Valentinus)殉教の日、いつからか若い恋人同士の守護聖人として崇められて久しい。この東洋の異邦にあっても、夙に「国民的行事」と化して、身近な女性からのチョコレートの贈与に目尻を下げぬ男性は皆無なはず。そのチョコレートの人気ブランドの一つに、ベルギー生まれの「ゴディバ」がある。ゴディバが人名であり、それも女性の名であることぐらいは知られていよう。さらに、その名前が由来する人物の、耳目を引く「美談」についても。デパートの洋菓子売場の一角を覗けば、逞しい商魂の込められた美麗な小冊子が手に入って、蕩けるような甘い世界に私たちを誘ってくれる。本稿は、近年における英語文献学の一成果であるDaniel Donoghue, Lady Godiva: A Literary History of the Legend(2003)に専ら拠りつつ、この快著が明らかにする11世紀イングランドに実在した貴族出身のGodivaという女性の、実像の復元と伝説の形成の過程を検証しながら紹介するものである。深沢広助教授のご退休を寿ぐ論集、無粋な文献語学徒とて何ほどの策も無く、いささか艶ものめくテーマでの、解説、書評、あるいは翻訳か、いずれとも知れぬ駄文を草して自らの責をふさぐ次第。
著者
島村 宣男
出版者
関東学院大学[文学部]人文学会
雑誌
関東学院大学文学部紀要 (ISSN:02861216)
巻号頁・発行日
vol.117, pp.73-92,

毎年の2月14日、遠く紀元3世紀の古代ローマは聖ワレンティヌス(St. Valentinus)殉教の日、いつからか若い恋人同士の守護聖人として崇められて久しい。この東洋の異邦にあっても、夙に「国民的行事」と化して、身近な女性からのチョコレートの贈与に目尻を下げぬ男性は皆無なはず。そのチョコレートの人気ブランドの一つに、ベルギー生まれの「ゴディバ」がある。ゴディバが人名であり、それも女性の名であることぐらいは知られていよう。さらに、その名前が由来する人物の、耳目を引く「美談」についても。デパートの洋菓子売場の一角を覗けば、逞しい商魂の込められた美麗な小冊子が手に入って、蕩けるような甘い世界に私たちを誘ってくれる。本稿は、近年における英語文献学の一成果であるDaniel Donoghue, Lady Godiva: A Literary History of the Legend(2003)に専ら拠りつつ、この快著が明らかにする11世紀イングランドに実在した貴族出身のGodivaという女性の、実像の復元と伝説の形成の過程を検証しながら紹介するものである。深沢広助教授のご退休を寿ぐ論集、無粋な文献語学徒とて何ほどの策も無く、いささか艶ものめくテーマでの、解説、書評、あるいは翻訳か、いずれとも知れぬ駄文を草して自らの責をふさぐ次第。
著者
島村 宣男
出版者
関東学院大学[文学部]人文学会
雑誌
関東学院大学文学部紀要 (ISSN:02861216)
巻号頁・発行日
no.112, pp.145-179, 2007

最新のハリウッド情報によれば、イギリス・ルネサンス期の詩人John Miltonの傑作叙事詩Paradise Lost(1674)の映画化の企画が進行中であるという。周知のように、聖書は創世記を下敷きにした「人間の最初の不服従」(man's first disobedience)と「あの禁断の木の実」(the fruit of that forbidden tree)の物話である。これは、ときに「アメリカ最初の詩人」という比喩をもって語られるMiltonの詩想の浸透ぶりが、いかに強く、そして深いかを物語っているだろう。本稿は、先に公表した「"It's Milton. Always there<--The Devil's Advocate (1997)」に続き、Miltonの詩想のアメリカ大衆文化への影響のほどを探る試みである。ここで対象となるのは、特異な映像感覚で知られるDavid Fincherの演出によるハリウッド映画Se7en(aka. Seven, 1995)である。ジャンルの上からは所謂「心理的ホラー映画」(psychological horror movies)に属して、複数の映画賞も受賞して世評も高く、知的なメッセージ性を込めた問題作となっている。中世カトリック神学における伝統的な観念の体系、「七つの大罪」(the Seven Deadly Sins)をプロットの下敷きに据え、Miltonをはじめ、Dante, Chaucer, Shakespeareといった中・近世の詩人たちばかりか、Maugham, Hemingway, Capoteといった20世紀作家たちへの引用や言及が目配りよくなされているのがその特徴である。映画の成否は脚本(script)次第とはしばしば言われるが、このユニークな作品の脚本を執筆したのはA . K. Walker、とりわけ興味深いのは、本稿のタイトルの一部にもなっているMiltonの詩句への徹底した拘りである。本稿は、その映画台本(screenplay)の有意味的な台詞を分析することによって、「なぜMiltonか?」("Why Milton?<)という文化論的な問いへの解答の一例を提供する。
著者
島村 宣男
出版者
関東学院大学[文学部]人文学会
雑誌
関東学院大学文学部紀要 (ISSN:02861216)
巻号頁・発行日
no.122, pp.47-65,

アメリカ映画 Gran Torino(邦題「グラン・トリノ」)は、ハリウッド屈指のフィルムメーカー Clint Eastwood の監督・主演にかかる2008年度作品、翌2009年初頭に全米公開されるや大きな話題を呼んで映画ファンの評価も上々、国内の興行成績でも予想外の高収益を挙げた。朝鮮戦争で勲功を立てた元英雄で、フォード社の熟練機械工として勤め上げ、現在は悠々自適の生活をおくる老人ウォルト・コワルスキとラオス系移民(モン族)の少年タオとのこころの交流を、人間の誇り、父性、老いと死、暴力と贖罪といったテーマを軸に、悠揚迫らぬリアリズムの手法で描いた作品である。本稿は言語文化論の立場から、脚本家 Nick Schenk によるスクリーンプレイを通して、Eastwood 独自の語りの世界を読み解く試論である。
著者
島村 宣男
出版者
関東学院大学[文学部]人文学会
雑誌
関東学院大学文学部紀要 (ISSN:02861216)
巻号頁・発行日
no.119, pp.173-195,

アメリカ映画Gran Torino(邦題「グラン・トリノ」)は、ハリウッド屈指のフィルムメーカーClint Eastwoodの監督・主演にかかる2008年度作品、翌2009年初頭に全米公開されるや大きな話題を呼んで映画ファンの評価も上々、国内の興行成績でも予想外の高収益を挙げた。朝鮮戦争で勲功を立てた元英雄で、フォード社の熟練機械工として勤めあげ、現在は悠々自適の生活をおくる老人ウォルト・コワルスキとラオス系移民(モン族)の少年タオとのこころの交流を、人間の誇り、父性、老いと死、暴力と贖罪、自己犠牲といったテーマを軸に、悠揚迫らぬリアリズムの手法で描いた作品である。本稿は言語文化論の立場から、脚本家Nick Schenkによるスクリプトを通して、Eastwood独自の語りの世界を読み解く試論である。
著者
島村 宣男
出版者
関東学院大学[文学部]人文学会
雑誌
関東学院大学文学部紀要 (ISSN:02861216)
巻号頁・発行日
vol.120, no.1, pp.45-72,

アメリカ映画 Gran Torino(邦題「グラン・トリノ」)は、ハリウッド屈指のフィルムメーカー Clint Eastwood の監督・主演にかかる2008年度作品、翌2009年初頭に全米公開されるや大きな話題を呼んで映画ファンの評価も上々、国内の興行成績でも予想外の高収益を挙げた。朝鮮戦争で勲功を立てた元英雄で、フォード社の熟練機械工として勤め上げ、現在は悠々自適の生活をおくる老人ウォルト・コワルスキとラオス系移民(モン族)の少年タオとのこころの交流を、人間の誇り、父性、老いと死、暴力と贖罪といったテーマを軸に、悠揚迫らぬリアリズムの手法で描いた作品である。本稿は言語文化論の立場から、脚本家 Nick Schenk によるスクリーンプレイを通して、Eastwood 独自の語りの世界を読み解く試論である。
著者
島村 宣男
出版者
関東学院大学[文学部]人文学会
雑誌
関東学院大学文学部紀要 (ISSN:02861216)
巻号頁・発行日
no.116, pp.95-106, 2009

アメリカン・コミック界を代表して、いまや「アメリカのイコン」(the American icon)と化した《バットマン》、1989年から本格的なシリーズ化が始まったハリウッド映画界では、2005年からはよりリアルなヒーロー像をという期待に応える新シリーズがコア・ファンの熱烈な支持を獲得、第一作 Batman Begins(2005)に続く続編 The Dark Knight(2008)が記録的な興行収益を挙げたことはまだ記憶に新しい。アメリカ国内ではシリーズ三作目の期待がいよいよ高まるばかりだ。《バットマン》がなぜアメリカ人をかくも熱狂させるのかについては、筆者はここ20年にわたって計5篇の論文を公表し、「言語文化論」を意識した近著『新しい英語史』(2006)をはじめ、他の場所でも多少とも言及する機会があった。本稿は、先稿「"Why so serious?"--映画 The Dark Knight の倫理学」(2008)において、紙数の関係から論及を割愛した部分の考察にかかる。
著者
島村 宣男
出版者
関東学院大学[文学部]人文学会
雑誌
関東学院大学文学部紀要 (ISSN:02861216)
巻号頁・発行日
vol.112, pp.145-179,

最新のハリウッド情報によれば、イギリス・ルネサンス期の詩人John Miltonの傑作叙事詩Paradise Lost(1674)の映画化の企画が進行中であるという。周知のように、聖書は創世記を下敷きにした「人間の最初の不服従」(man's first disobedience)と「あの禁断の木の実」(the fruit of that forbidden tree)の物話である。これは、ときに「アメリカ最初の詩人」という比喩をもって語られるMiltonの詩想の浸透ぶりが、いかに強く、そして深いかを物語っているだろう。本稿は、先に公表した「"It's Milton. Always there"--The Devil's Advocate (1997)」に続き、Miltonの詩想のアメリカ大衆文化への影響のほどを探る試みである。ここで対象となるのは、特異な映像感覚で知られるDavid Fincherの演出によるハリウッド映画Se7en(aka. Seven, 1995)である。ジャンルの上からは所謂「心理的ホラー映画」(psychological horror movies)に属して、複数の映画賞も受賞して世評も高く、知的なメッセージ性を込めた問題作となっている。中世カトリック神学における伝統的な観念の体系、「七つの大罪」(the Seven Deadly Sins)をプロットの下敷きに据え、Miltonをはじめ、Dante, Chaucer, Shakespeareといった中・近世の詩人たちばかりか、Maugham, Hemingway, Capoteといった20世紀作家たちへの引用や言及が目配りよくなされているのがその特徴である。映画の成否は脚本(script)次第とはしばしば言われるが、このユニークな作品の脚本を執筆したのはA . K. Walker、とりわけ興味深いのは、本稿のタイトルの一部にもなっているMiltonの詩句への徹底した拘りである。本稿は、その映画台本(screenplay)の有意味的な台詞を分析することによって、「なぜMiltonか?」("Why Milton?")という文化論的な問いへの解答の一例を提供する。
著者
島村 宣男
出版者
関東学院大学[文学部]人文学会
雑誌
関東学院大学文学部紀要 (ISSN:02861216)
巻号頁・発行日
no.113, pp.21-51, 2008

アメリカ映画のジャンルの一つに「西部劇」(westerns)がある。アメリカは19世紀末の西部辺境(frontiers)を舞台に展開する人間ドラマは、さしずめこの国の時代劇は江戸期の「股旅もの」に匹敵するだろう。東に一宿一飯の旅鴉がいれば、西には流れ者のガンマン(gunslingers)がいて、編み笠にはカーボーイ・ハット、腰に差した長刀差には腰に吊るした拳銃、寒風吹きすさぶ河原での出入りには砂塵舞う大平原でのガンファイトといった好対照、物語りのプロットは共通して「勧善懲悪」、端から一般大衆の嗜好に見事に適っている。この国の時代劇についても然り、半世紀前にはかの国の西部劇にも John Wayne, Gary Cooper, Burt Lancaster, Kirk Douglas といった大スターがスクリーン狭しと暴れまくり、映画ファンの血をたぎらせたものである。ところがどうだろう、昨今ではその隆盛の面影すらない。本稿は、2007年度に全米で公開されて高い評価を得た西部劇(日本未公開)で、James Mangold 監督作品の 3: 10 to Yuma のなかで描かれた主要なキャラクターの人間性の在り処を検証する試論である。この作品で興味深いのは、主人公の一人を聖書の読者に仕立て、旧約は「箴言」(Proverbs)の聖句を再三引かせていることである。西部劇における聖書の引用は特に珍しいわけではなく、これまでにも、Pale Rider(1985年度作品、監督・主演 Clint Eastwood)や Tombstone(1998年度作品、監督 George P. Cosmatos、主演 Kurt Russell, Val Kilmer)では、ともに新約は「ヨハネの黙示録」(The Revelation)を典拠とする引喩・引用がある。もとより本稿は、映画評論の域を超えるものとして、ことばを中核に据えて見えてくるはずの、アメリカ文化論の構築を企図する筆者の一連の作業に属する。
著者
島村 宣男
出版者
関東学院大学[文学部]人文学会
雑誌
関東学院大学文学部紀要 (ISSN:02861216)
巻号頁・発行日
no.109, pp.133-162, 2006

仮想された近未来の「ファシズム国家イギリス」を舞台にした大人向けのグラフィック・ノベル(劇画)の傑作に、A. Moore & D. Lloyd, V for Vendetta (1989)がある。その独特の世界観に共感をもつファンも少なくない。1980年代はMargaret Thatcherの超保守的な政権下にあって、社会全体に閉塞感の漂う時代が生んだ作品で、その下敷きになったのは、17世紀初頭の帝都ロンドンで未遂に終わった爆弾テロ事件、所謂「火薬陰謀事件」である。このグラフィック・ノベルの力強い語りの世界を、映画Matrix Trilogy(1999/ 2003)の脚本・監督・製作で広く知られるWachowski兄弟による脚本をもとに映像化したのが、Matrix三部作で撮影監督をつとめたJames McTeigueによる同名の近作(日本公開は2006年)である。この作品の特徴は、そのスタイリッシュな映像はもとより、メッセージ豊かな物語性にある。「血肉」を超える「理念」の強靭さを謳いあげ、2006年度の映画界を代表する一作となった。本稿は、このほど公刊されたシューティング・スクリプトの有意味的な台詞の分析を中心に、V for Vendettaの特異で重厚な物語世界を読み解く試論である。
著者
島村 宣男
出版者
関東学院大学[文学部]人文学会
雑誌
関東学院大学文学部紀要 (ISSN:02861216)
巻号頁・発行日
no.118, pp.1-13, 2009

イギリス人監督Christopher Nolanの演出にかかるアメリカ映画、新〈バットマン〉シリーズの第二作目のThe Dark Knight(2008)の評価は、映画専門のウェブサイト、The Internet Movie Databaseの2010年1月現在におけるユーザー評価が10点満点の8.9点、人気順位が歴代上位250作品中の第9位(投票総数41万強)とあり、確固として定まったようである。この記録破りの映画に関して、筆者は言語文化論の立場からすでに2篇の論考を公表しているが、先行論文では紙数の関係もあって言及することができなかった二、三の新たな論点をここに提示したい。
著者
島村 宣男
出版者
関東学院大学[文学部]人文学会
雑誌
関東学院大学文学部紀要 (ISSN:02861216)
巻号頁・発行日
no.118, pp.1-13, 2009

イギリス人監督Christopher Nolanの演出にかかるアメリカ映画、新〈バットマン〉シリーズの第二作目のThe Dark Knight(2008)の評価は、映画専門のウェブサイト、The Internet Movie Databaseの2010年1月現在におけるユーザー評価が10点満点の8.9点、人気順位が歴代上位250作品中の第9位(投票総数41万強)とあり、確固として定まったようである。この記録破りの映画に関して、筆者は言語文化論の立場からすでに2篇の論考を公表しているが、先行論文では紙数の関係もあって言及することができなかった二、三の新たな論点をここに提示したい。
著者
島村 宣男
出版者
関東学院大学[文学部]人文学会
雑誌
関東学院大学文学部紀要 (ISSN:02861216)
巻号頁・発行日
no.113, pp.21-51, 2008

アメリカ映画のジャンルの一つに「西部劇」(westerns)がある。アメリカは19世紀末の西部辺境(frontiers)を舞台に展開する人間ドラマは、さしずめこの国の時代劇は江戸期の「股旅もの」に匹敵するだろう。東に一宿一飯の旅鴉がいれば、西には流れ者のガンマン(gunslingers)がいて、編み笠にはカーボーイ・ハット、腰に差した長刀差には腰に吊るした拳銃、寒風吹きすさぶ河原での出入りには砂塵舞う大平原でのガンファイトといった好対照、物語りのプロットは共通して「勧善懲悪」、端から一般大衆の嗜好に見事に適っている。この国の時代劇についても然り、半世紀前にはかの国の西部劇にも John Wayne, Gary Cooper, Burt Lancaster, Kirk Douglas といった大スターがスクリーン狭しと暴れまくり、映画ファンの血をたぎらせたものである。ところがどうだろう、昨今ではその隆盛の面影すらない。本稿は、2007年度に全米で公開されて高い評価を得た西部劇(日本未公開)で、James Mangold 監督作品の 3: 10 to Yuma のなかで描かれた主要なキャラクターの人間性の在り処を検証する試論である。この作品で興味深いのは、主人公の一人を聖書の読者に仕立て、旧約は「箴言」(Proverbs)の聖句を再三引かせていることである。西部劇における聖書の引用は特に珍しいわけではなく、これまでにも、Pale Rider(1985年度作品、監督・主演 Clint Eastwood)や Tombstone(1998年度作品、監督 George P. Cosmatos、主演 Kurt Russell, Val Kilmer)では、ともに新約は「ヨハネの黙示録」(The Revelation)を典拠とする引喩・引用がある。もとより本稿は、映画評論の域を超えるものとして、ことばを中核に据えて見えてくるはずの、アメリカ文化論の構築を企図する筆者の一連の作業に属する。
著者
島村 宣男
出版者
関東学院大学[文学部]人文学会
雑誌
関東学院大学文学部紀要 (ISSN:02861216)
巻号頁・発行日
no.114, pp.17-76, 2008

2008年夏、米国の映画界はファン期待の新作The Dark Knightの話題で沸騰した。この作品はグラフィック・ノベル(劇画)を原作とする新バットマン・シリーズの第一作Batman Begins(2005)の続編、監督はイギリスの俊英C. Nolan、キャストはタイトルロールのC. Bale以下、M. Caine、G. Oldman、M. Freemanといった錚々たる名優たちの続投に加え、H. Ledger、A. Eckhart、M. Gyllenhaalなど、個性豊かな演技派が競演する超大作である。多くの批評家がジャンルの枠を超えた「傑作」と絶賛するなか、The Dark Knightは7月中旬に全米公開されるや圧倒的な支持が拡がり、「全米歴代新記録 7冠」という快挙を達成した。すなわち、(1)公開劇場館数(4,366館)、(2)ミッドナイトプレヴュー興収(1,850万ドル)、(3)公開初日興収(6,716万ドル)、(4)公開週末3日間興収(1億5,841万ドル)、(5)興収2億ドル突破最短記録(5日間)、(6)興収3億ドル突破最短記録(10日間)、(7)興収4億ドル突破最短記録(18日間)がそれである。8月末現在、国内総収益(all time grosses)は5億ドルを突破して史上第二位、Titanic(1997)の最高記録6億ドルを追っている。The Dark Knightが「傑作」と評される所以は何か?完成度の高いスクリプトを通して、この叙事詩的な風格さえ漂わす「ブロックバスター」の倫理的なメッセージを読み解きながら、アメリカ的精神の在り処を探る本稿は、先考「"a guy who dresses up like a bat clearly has issues<--映画Batman Beginsの記号論」(2006)の続編でもある。