著者
多ケ谷 有子
出版者
関東学院大学[文学部]人文学会
雑誌
関東学院大学文学部紀要 (ISSN:02861216)
巻号頁・発行日
no.125, pp.75-101, 2012

9世紀から12世紀にかけての約350年間、日本においては国家による公的な死刑は行われなかった。江戸時代の水戸藩の『大日本史』のようにこの死刑停止の事実を疑う立場もあるが、「官符」などの公文書による規定があること、『西宮記』に記録されるような「口傳」があること、具体的に階級にかかわらず「詔」して「死一等を減じ、之を遠流に処す」旨の史的記録が多くあること、国家による死刑が行われた記録がないことから、実際に死刑は回避されて軽減され、事実上停止されていたことは、史実と結論できる。この死刑停止から死刑が復活したのは保元の乱以降、後白河天皇の側近の信西の建議による(『保元物語』等)。『古事談』には、国法に反して殺生(鷹狩)を行った武士が、白河法皇に追放の刑を受ける説話がある。これは上記死刑停止の最中であり、原則として死罪に問われることがない状況であったことを踏まえて理解すべきである。例外はあり、背景や理由が理想主義的とは言えないにしても、稀有にして有りえないような死刑停止が、平安期の日本に史実としてあったという事実は注目すべきである。

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CiNii 論文 -  わが国平安朝期における350年に及ぶ死刑停止の史実と意味 : 『保元物語』と『古事談』を中心に https://t.co/RYzuYZTmgG

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