著者
中村 克明
出版者
関東学院大学文学部人文学会
雑誌
関東学院大学文学部紀要 (ISSN:02861216)
巻号頁・発行日
no.128, pp.73-86, 2013

平和的生存権(平和に生きる権利)は,1962(昭和37)年に星野安三郎によって提唱された"新しい人権"である.平和的生存権の法的性格・意味内容に確立した学説は存しないが,この権利の中核に徴兵制の否定があることは大方の承認するところである.国民を強制的に軍隊に徴収し,一定期間,軍事訓練させ,戦争に備えるための徴兵制が,人命・人権尊重の観点からはもとより,平和主義その他の諸点からみても,野蛮で非人道的な制度であることは明白である.今日,軍隊を有する国家において,徴兵制廃止の動きがみられるのも,当然のことといってよいのである.そもそも軍隊は,その目的が何であれ,"破壊と殺戮"を本務とする戦争のための暴力装置である.軍隊は平和を保障するものではなく,戦争を保障するものである.軍隊の保有と徴兵制の制定を望む勢力が現在,政財界において中枢を占めるに至っているが,この制度の復活は国際的潮流に逆行するだけでなく,我が国が戦後培ってきた民主主義体制を崩壊させる危険性が極めて大きい.平和的生存権論のより一層の進展が,強く望まれる所以である.

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