著者
中島 弘至
出版者
関西大学教育開発支援センター
雑誌
関西大学高等教育研究 (ISSN:21856389)
巻号頁・発行日
no.8, pp.79-91, 2017-03

かつて我が国では大学を出たかどうか、あるいはどこの大学を出たかどうかで人を評価するといった学歴主義が浸透していた。それが就職先にも影響することから多くの批判があった。しかし、1990年代のバブル経済崩壊以降、企業は厳しい経営環境にさらされ、新卒者の中にはこれまで当たり前と思われた正規職さえ就けない者が続出した。それとともに近年、(学力以外の)社会人・職業人に必要な能力を求める声が各方面で強くなっている。果たして学歴主義は遠のいたのだろうか。 バブル期から現在までの大手企業と有名大学の就職データに基づきパネルデータ分析を行うと、学歴主義がなお有効であるとの結論が出た。そこで新卒労働市場のプレーヤーについて、戦後における教育制度との関わりを検証した。大学はもとより階層的構造を持つが、戦後改革の好機にも是正されずその構造は温存された。また経済団体は教育制度への改善欲求を出し続ける一方、文部省(文部科学省)は審議会などを通じて、大学種別化政策を推進した。ところで新卒労働市場には採用選考に関わる就職協定(就活ルール)がある。60年以上の歴史を持つものの殆ど遵守されたことはない。つまり違反が過度になると、実情にあわせて、公正と思われる時期へと就職協定は変更されるのである。このようにして社会からの批判をかわし、長らく生き延びてきた。だがそのことが今なお存在する学歴主義を見えにくいものにした可能性はある。

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