著者
山口 正晃 Masateru YAMAGUCHI
出版者
大手前大学
雑誌
大手前大学論集 (ISSN:1882644X)
巻号頁・発行日
no.17, pp.11-45, 2016

三国魏において制度化された都督制は、若干の変化を見せながらも、次の西晋王朝まで大枠としては変更なく受け継がれた。その制度上の特徴について明らかにすることが、本稿の主題である。具体的には、(1)魏晋期都督制の制度内容について最もまとまった記述のある『晋書』職官志の分析、(2)都督制に付随する「節」という権力標識から見た都督制の成立経緯、(3)都督制の実際の運用状況、(4)軍隊組織における都督の位置づけという四つの視点から、検討を加える。その結果、都督制が将軍の地位下落を契機として出現した制度でありながら、実際にはその制度上の基盤は却って将軍に存すること、すなわち都督とは独立した官職ではなく、将軍が持つ「肩書き」であることが判明した。この結論は、二つの点において先行研究に対する独自の意義を有する。一つは、漢末三国に将軍号が虚号化して軍事長官の座から転落したという従来の理解に釘を刺し、西晋期まで「一軍」の長官としての地位はなお保っていたことを指摘した点。いま一つは、一部の研究者に見られる都督の主体を刺史・太守と見なす誤解を正し、現実に刺史・太守が都督を兼任する場合はあるものの、それは将軍号を持つ刺史・太守であって、制度的に都督が付与されるのはあくまでも将軍に対してであることを論証した点、である。

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