著者
岩本 剛
出版者
中央大学人文科学研究所
雑誌
人文研紀要 (ISSN:02873877)
巻号頁・発行日
no.87, pp.225-253, 2017

ベンヤミンのアナーキズムは,個人にのみ暴力行使の権利をみとめ,個人の暴力を神からの贈与=負託として擁護するものだが,暴力批判論は,そのような特異なアナーキズムを詳述した論考として解釈することができる。法的暴力の作動/機能の批判的究明を基調とする同論は,法と暴力の共依存的結合を発生させる神話的=運命的な「法措定」のうちに,法的暴力(神話的暴力)の根源を発見した。ただし,同論に提示された法的暴力の「解任」の理念を,一般的なアナーキズムにいわれる意味での法(国家)の廃絶として一義的に理解することは,解釈としてはいまだ不十分である。隠微な両義性を孕んだ暴力批判論の考察は,法的暴力の「解任」がもたらすやもしれぬアナーキー/未開状態の到来に対するベンヤミンの危倶を明かすとともに,法的暴力の「救出」の理念をはからずも提示している。ベンヤミンは,神の正義が個人に贈与=負託した暴力(神的暴力)を,法における「法措定」の契機を未然に阻止することで,法的暴力の自己目的化した作動/機能を抑止し,法を凋落から救出する暴力として擁護する。

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