- 著者
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伊野 連
- 出版者
- 東洋大学大学院
- 雑誌
- 大学院紀要 = Bulletin of the Graduate School, Toyo University (ISSN:02890445)
- 巻号頁・発行日
- vol.54, pp.117-132, 2017
本稿は脳死と心臓移植に関する輿論とマス・メディア、特に大新聞における科学ジャーナリズムとの相互影響関係について検証する。クリスチャン・バーナードの二度目の心臓移植、いわゆる「ブレイバーグ・移植」は成功であった。フィリップ・ブレイバーグは当時としては最長の594日間生存した。同時期の新聞はブレイバーグこそ深刻な心臓病に苦しむ患者たちの希望であり、将来の医療の星だと報じた。1982年9月、日本移植学会は脳死ドナーからの二つの腎臓移植が同年一月と四月におこなわれていたことを公表した。この声明は脳死移植への既成事実となった。本稿はこの二つの出来事をきわめて重要であるとみなしている。前者は心臓移植の停滞と再考のきっかけとなり、後者は脳死ドナー承認のきっかけとなったわけである。