著者
赤堀 三郎
出版者
東京女子大学現代教養学部国際社会学科社会学専攻紀要編集委員会
雑誌
東京女子大学社会学年報 (ISSN:21876401)
巻号頁・発行日
no.4, pp.1-12, 2016-03-02

日本ではここ10 年ほど,自己責任という言葉の濫用に代表されるように,他者への無関心および全体への滅私奉公を当然視するかのような言説の独り歩きが広く見られる.本論文はこの風潮を道徳的観点から非難したり,日本文化の特殊性と結びつけて論じたりするものではない.「社会システムの観察」という論点を手がかりとして,このケースのような現象一般を扱うための普遍的な枠組を探究することを目的とするものである.\rソシオサイバネティクスでは,コミュニケーションにかかわるこの手の現象を,個々の人格や個々の言説そのものではなく,社会システム(コミュニケーション・システム)という「観察者」の水準において考える.「社会システムの観察」は,ソシオサイバネティクスの主要論点のひとつとされている.ソシオサイバネティクスの観点からは,自己責任などのクリーシェの蔓延というケースに関して,次のように分析できる.第一に,クリーシェが繰り返し用いられることで,ポジティブ・フィードバックに基づく社会システムの逸脱増幅プロセスが生じる.このようなメカニズムが世論の極端化(polarization)の根本にある.第二に,世論の極端化を21世紀突入後のメディアの変化,とりわけソーシャル・メディアの台頭との関連で考えることができる.第三に,世論の極端化の方向を変えようと望むならば,対抗的言説によって火消しを試みる前に,「社会システムの観察」においていかなるフィードバック・ループが作用しているか,あるいは,どのようにそのループを断ち切れるか,といった点にまず着目するべきである.以上のような社会学的視座に立つことで,「社会システムの観察」の状況―たとえば不安定で,ちょっとしたきっかけで二極化したり,極端から極端へと振れたりするような状況―を描き出し,何らかの対策を立てることが可能になる.

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