著者
津田 好子
出版者
東京女子大学論集編集委員会
雑誌
東京女子大学紀要論集 (ISSN:04934350)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.145-164, 2013-09

本稿では、女性を対象とした教育放送番組のなかでの〈母親〉の位置づけの変容をたどり、それがその時々の社会政策を反映した理想の母親の再生産過程であったことを明らかにする。先行研究が明らかにしてきたように、「教育的」という特徴をもつ日本のテレビ番組のなかに、教育対象として女性が組み込まれていった過程には、戦中のラジオによる「母親教育」を源流とする連続的な流れがある。つまり戦中の「国民教化」政策の分析によって、日本でのメディアによる教育効果の大きさを確信したアメリカ占領軍は、その特徴を民主化政策に利用した。CIEは、女性を「民主的な子ども」を養育するための「賢母」になる存在と位置づけ、CIE指導下でNHKは「賢母」教育のための番組を制作し、放送した。本研究の分析の結果、教育テレビ番組「おかあさんの勉強室」(1965~1990年放送)は、先述の「賢母」教育を引き継いだ番組といえる。同番組は、「学校教育と家庭教育の接合」を目的に、母親を家庭内で〈子ども〉の養育を主として担う存在と位置づけた。学校放送番組である同番組は保護者を母親と位置づけ「賢母」が〈子ども〉を家庭の中でしつけるように求めた。また当時の社会教育政策は「放送の教育利用」を推進した。社会教育と結びつきの深かった同番組は、その時々の社会政策を背景とした母親規範の再生産を目的にしていたといえよう。

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