- 著者
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桐村 喬
- 出版者
- 皇學館大学文学部 ; 2009-
- 雑誌
- 皇學館大学紀要 = Bulletin of Kogakkan University (ISSN:18836984)
- 巻号頁・発行日
- vol.56, pp.114-92, 2018-03
本稿では、代表的な位置情報付き SNS ログデータであるTwitter データに注目し、どの程度の空間的スケールでの観光行動が行われているかを明らかにしながら、観光行動分析におけるTwitter データの有用性と限界について若干の考察を加える。分析に用いるのは、2012年4月から2015年3月までの3年度分の位置情報付きの Twitter データであり、ツイートに利用されたアプリの情報がモバイル機器向けのアプリであるものに絞り込んだものである。本研究における論点は主に2つである。 まず、Twitter データは近年様々な地理的分析において用いられているが、データのもつ地理的特性については十分に議論されていない。日本全国のTwitter データから最も投稿の多い地域を居住地として判定して、居住地別にユーザー数を集計すると、東京、大阪の二大都市圏への偏在が認められた。また、伊勢市において、観光客の実態調査に基づく居住地と比べると、Twitterユーザーのほうが二大都市圏により偏在する傾向が認められた。観光行動の分析を行う場合は、居住地ごとに分析するか、あるいは居住地の偏りを補正したうえで分析する必要があると考えられた。 次に、Twitter データについては、2015年4月下旬以降、付与される位置情報が大きく変化し、従来学術研究に活用されてきたポイント単位のデータの大部分はチェックインサービスを通したものに限られるようになり、分析可能な空間単位は実質的にポイントから市区町村へと変化した。伊勢志摩地域を事例としてポイント単位のデータで観光行動分析を行った結果、伊勢市内の特定の地域間の行動と鳥羽市や志摩市との間の行動が確認された。伊勢志摩地域の場合、前者は2015年4月以降では詳細に分析することは難しいが、後者は今後も問題なく分析できるものと考えられる。位置情報の変更の結果、ポイント単位のデータは、全体を代表するものではなくなったため、今後の市内移動の分析においては、市区町村単位のデータも併用する必要があると判断された。