著者
井上 学 桐村 喬
雑誌
じんもんこん2009論文集
巻号頁・発行日
vol.2009, no.16, pp.345-350, 2009-12-11

本研究は,戦前期における大都市内部の公共交通機関の利用実態を復原することを目的としている.対象地域は京都市であり,1937年に実施された市電・市バスの交通調査結果と,1941年に実施された市民調査結果を利用する.GISを利用した2つの資料の地図化により,当時の都市内交通の結節点が示され,市電と市バスの利用パターンの差異が示された.また,都心部での昼間時の在宅者が多い一方で,都心部への通勤・通学需要の大きさも示された.
著者
桐村 喬
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2017年度日本地理学会秋季学術大会
巻号頁・発行日
pp.100020, 2017 (Released:2017-10-26)

I 研究の背景・目的  日本においては,地名に由来する名字が8割を占めるとされている(丹羽, 2002).そのため,名字の分布は,由来となる地名の存在する地域と一定の関連性を備えたものになると考えられ,どの名字がどの地域に多いのかが電話帳や名簿データなどに基づき詳細に調査されてきた(矢野, 2007など)。一方,名字からは,様々な地理的情報を得ることができる.例えばMateos(2014)は,名字に基づき,主にロンドンにおける言語や民族別の人口分布を明らかにしている.どの名字がどの地域で多いのかという従来的な視点からではなく,出身地あるいは祖先が居住していた地域(以下,これらを「出身地等」と呼ぶ)を知るための手がかりとして名字を捉えることで,有用な知見を新たに得ることができるものと考えられる.  そこで本研究では,地域ごとに特有の名字を求めるために名字の分類を行った上で,名字の類型別の構成比に基づいて地域を分類し,名字を通して観察できる出身地等別の人口構成に基づく地域間の結び付きを明らかにすることを試みる.出身地や出生地別の全国的な居住人口統計は,1950年の国勢調査結果以降作成されておらず,本研究で得られる知見は,一定の重要性を持つものと考えられる.II 名字の類型化  名字に関するデータとして,東京大学空間情報科学研究センターとの共同研究により提供された2014年版の「テレポイント Pack!」(以下,電話帳データと呼ぶ)を用いる.電話帳データからは,2013年末時点の電話帳に掲載されている1,600万件の個人の名字を把握できる.分析対象とするのは,全国で100件以上のデータを持つ,9,985種類の名字である.  名字の類型化のために,2013年末時点の市区町村単位でそれぞれの名字の件数を集計し,名字ごとに市区町村別の構成比を求める.この構成比を,SOM(自己組織化マップ)とWard法を用いて類型化し,名字に関する33類型を作成した(以下,名字類型と呼ぶ).名字類型は,主に分布する地域が類似している名字のまとまりである.例えば,名字類型のS33は沖縄県に分布が集中する名字の類型であり,S10は,関東地方が分布の中心であるものの全国で1万件以上のデータを持つ名字の40.8%が含まれるなど,分布範囲の集中傾向が弱い名字の類型である.  地域ごとに名字類型別の名字件数の構成を求めることで,各類型の名字が主に分布する地域を出身地等とする人口の構成を推定できる.この推定の妥当性を検証するために,各類型の名字が主に分布する地域を都道府県単位で特定し,これらの都道府県を出生地とする1950年時点の人口を都道府県別に求めて出生地別人口比率を算出し,都道府県別の名字類型の構成比と比較した.これらの間には有意な一定の相関関係があることから,名字類型を通して,出身地等別の人口構成をある程度把握できると考えられる.III 名字類型別の構成比に基づく地域分類  市区町村単位で名字類型別の構成比を求め,SOMおよびWard法を用いて類型化し,市区町村を分類する12類型(以下,地域類型と呼ぶ)を得た(図).大部分の地域類型は,複数の都道府県にまたがっており,北海道を除けば飛び地の少ない分布となっている.近畿および四国はおおむね同じ地域類型R08に含まれる一方で,東北および関東はそれぞれ3類型(東北:R01・R02・R04,関東:R02・R03・R06)に,九州は2類型(R10・R12)に分かれており,必ずしも地方単位の分類にはなっていない.沖縄については単独の地域類型R09を構成している.北海道は,道南を中心とする地域が北東北と同じ地域類型R04に含まれる一方,札幌市を含めた残る地域の大部分が北陸と同じ地域類型R05に含まれており,明治以来の開拓に伴う人口移動の結果が地域類型の分布に現れている.  一方で,東京や大阪などの大都市圏では,12の地域類型としては,それ以外の地域からの大規模な人口移動の結果と考えられるような分布パターンを十分に認めることができなかった.名字類型の段階で,すでに2013年時点の名字の分布が反映されているためと考えられる.ただし,栃木・茨城県と福島県がR02に,群馬・埼玉県と山梨・長野県がR03にそれぞれ属するなど,大都市圏の一部とその後背地とも考えられる地域のまとまりが抽出されており,人口移動に基づく地域間の結び付きの一端を示している可能性が示唆される.
著者
桐村 喬
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.176-186, 2021 (Released:2021-05-15)
参考文献数
6
被引用文献数
2

地域メッシュ単位で集計されたメッシュデータをGISソフトで地図に示すには,メッシュのポリゴンデータを用意したうえで結合する必要があり,場合によっては事前の加工が必要なこともある.そこで,これらの手間を省き,メッシュデータから簡易的にメッシュマップを描画する,ウェブブラウザベースの「MeshDataView3D」を開発した.本ツールでは,e-Statのデータも含めたメッシュデータを読み込むことができ,ポイントやポリゴン,3Dポリゴンでメッシュマップを描画できる.本ツールを使用することで,メッシュマップの描画に要する時間を大幅に削減でき,授業であれば,さまざまなメッシュマップから情報を読み取り,地理的思考を働かせることに十分な時間を割くことができる.また,インターネット接続と最新のウェブブラウザさえあれば動作することから,自宅学習などでも活用でき,GIS教育や地理教育に役立てることができる.
著者
桐村 喬
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.83, no.2, pp.151-175, 2010-03-01 (Released:2012-01-31)
参考文献数
37
被引用文献数
2 1

本稿は,都市内部の居住者特性に関する入力変数の情報を最大限に活用した類型化および可視化手法としての自己組織化マップ(Self-Organizing Map: SOM)の有効性や網羅性を示すことを目的としている.SOMでは「マップ」と呼ばれる2次元空間を利用して,居住者特性の時空間的な変化を示すこともできる.そこで本稿では,SOMを用いて,阪神・淡路大震災前後の神戸市の既成市街地における時空間的な居住者特性の変化を明らかにする.SOMおよび「マップ」による分析の結果,被害が大きく,利便性の高い地域における若年層の増加や,製造業中心の地域における失業率の悪化や高齢化といった,従来の個別の事例研究において得られた成果と同様の結果が確認された.また,「マップ」によって,震災直後の居住者特性が従前よりも多様化したことが示された.こうしたことから,SOMは,都市内部における居住者特性の分析に対して非常に有効であり,網羅的に検討できる手法であることが示された.
著者
桐村 喬
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.79, no.4, pp.154-171, 2006-04-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
17
被引用文献数
1 1

本研究は,人口分布の変化による公立小学校通学区域の再編に焦点を当て,通学区域の最適化モデルを提示するとともに,その効率的解法として,遺伝的アルゴリズム(GA)に基づいた新たな解法を提案する.モデルでは総通学距離の最小化を目的関数とし,最大通学距離,児童数による適正規模,飛び地発生の抑制,公共施設との対応維持を制約条件とし,それらに時間軸を設けて,長期的に通学区域を維持できるようにした.また,GAを区割り問題に適応させたアルゴリズムを開発し,従来の同問題に対する解法と性能を比較した.その結果,従来の解法よりも効率よく問題を解くことができることがわかった.このアルゴリズムを用いて,児童数の変動の激しい大阪府吹田市立小学校の通学区域に対してモデルの適用を行い,その結果,(1)吹田市全域に対しては適正規模を維持して通学距離を減少させることができ,(2)市による通学区域再編案にっいてはこれがおおよそ最適解と一致することが明らかとなった.
著者
矢野 桂司 磯田 弦 中谷 友樹 河角 龍典 松岡 恵悟 高瀬 裕 河原 大 河原 典史 井上 学 塚本 章宏 桐村 喬
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.12-21, 2006 (Released:2010-06-02)
参考文献数
30
被引用文献数
10

本研究では,地理情報システム(GIS)とバーチャル・リアリティ(VR)技術を駆使して,仮想的に時・空間上での移動を可能とする,歴史都市京都の4D-GIS「京都バーチャル時・空間」を構築する.この京都バーチャル時・空間は,京都特有の高度で繊細な芸術・文化表現を世界に向けて公開・発信するための基盤として,京都をめぐるデジタル・アーカイブ化された多様なコンテンツを時間・空間的に位置づけるものである.京都の景観要素を構成する様々な事物をデータベース化し,それらの位置を2D-GIS上で精確に特定した上で,3D-GIS/VRによって景観要素の3次元的モデル化および視覚化を行う.複数の時間断面ごとのGISデータベース作成を通して,最終的に4D-GISとしての「京都バーチャル時・空間」が形作られる.さらにその成果は,3Dモデルを扱う新しいWebGISの技術を用いて,インターネットを介し公開される.
著者
矢野 桂司 中谷 友樹 磯田 弦 高瀬 裕 河角 龍典 松岡 恵悟 瀬戸 寿一 河原 大 塚本 章宏 井上 学 桐村 喬
出版者
Tokyo Geographical Society
雑誌
地學雜誌 (ISSN:0022135X)
巻号頁・発行日
vol.117, no.2, pp.464-478, 2008-04-25
被引用文献数
2 19

バーチャル京都は,歴史都市京都の過去,現在,未来を探求することを目的に,コンピュータ上に構築されたバーチャル時・空間である。本研究では,最先端のGISとVR技術を用いて,複数の時間スライスの3次元GISからなる4次元GISとしてのバーチャル京都を構築する。本研究は,まず,現在の京都の都市景観を構築し,過去にさかのぼる形で,昭和期,明治・大正期,江戸期,そして,京都に都ができた平安期までの都市景観を復原する。<br> バーチャル京都を構築するためには以下のようなプロジェクトが行われた。a)京都にかかわる,現在のデジタル地図,旧版地形図,地籍図,空中写真,絵図,景観写真,絵画,考古学資料,歴史資料など位置参照可能な史・資料のGIS データの作成,b)京町家,近代建築,文化遺産を含む社寺など,現存するすべての建築物のデータベースおよびGISデータの作成,c)上記建築物の3次元VRモデルの構築,d)上記GISデータを用いた対象期間を通しての土地利用や都市景観の復原やシミュレーション。<br> バーチャル京都は,京都に関連する様々なデジタル・アーカイブされたデータを配置したり,京都の繊細で洗練された文化・芸術を世界に発信したりするためのインフラストラクチャーである。そして,Webでのバーチャル京都は,歴史的な景観をもつ京都の地理学的文脈の中で,文化・芸術の歴史的データを探求するためのインターフェイスを提供する。さらに,バーチャル京都は,京都の景観計画を支援し,インターネットを介して世界に向けての京都の豊富な情報を配信するといった重要な役割を担うことになる。
著者
小口 高 早川 裕弌 桐村 喬
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2015年大会
巻号頁・発行日
2015-05-01

研究者が作成したデータを他の研究者も利用できるようにすることは科学の発展のために重要である。ただし研究者はデータ提供のボランティアではないため、自身の分析が終わるまではデータを公開しないといった選択があり得る。データを公開する場合にも、利用者がデータの出所について論文中で明記することを望んだり、データに不備が見つかったような場合に利用者に連絡できるようにしたいといった要望があり得る。ただし、そのような管理を含むデータの配付を個人の研究者が行うのは労力を要し、個人がデータの配付に利用できるウェブサイト等を運用していない場合もある。さらに、個人の対応ではデータの存在が広く知られにくく、利用が促進されない可能性もある。これらの問題を解決する方法として、第三者的なデータを配付する機関の管理下でデータを公開する形が考えられる。東京大学空間情報科学研究センターは、地理空間情報を用いた研究を行う共同利用・共同研究拠点として活動している。同センターでは「空間データの利用を伴う共同研究」を行っており、センターが入手したデータを一定の規約の下で全国あるいは海外の研究者に配付し、研究の活性化を行っている。データには行政機関や企業が作成したものと、個人研究者が作成したものが含まれる。データの配付の際には利用者の情報や使用目的が登録されるため、データの提供者はデータの使用状況を随時把握できる。また、データ配布のためのプラットフォームを個人が整備する必要がなくなる。本発表では、このような東京大学空間情報科学研究センターの活動を紹介し、個人研究者が作成したデータの公開に関する将来展望を述べる。
著者
桐村 喬
出版者
皇學館大学文学部 ; 2009-
雑誌
皇學館大学紀要 = Bulletin of Kogakkan University (ISSN:18836984)
巻号頁・発行日
vol.56, pp.114-92, 2018-03

本稿では、代表的な位置情報付き SNS ログデータであるTwitter データに注目し、どの程度の空間的スケールでの観光行動が行われているかを明らかにしながら、観光行動分析におけるTwitter データの有用性と限界について若干の考察を加える。分析に用いるのは、2012年4月から2015年3月までの3年度分の位置情報付きの Twitter データであり、ツイートに利用されたアプリの情報がモバイル機器向けのアプリであるものに絞り込んだものである。本研究における論点は主に2つである。 まず、Twitter データは近年様々な地理的分析において用いられているが、データのもつ地理的特性については十分に議論されていない。日本全国のTwitter データから最も投稿の多い地域を居住地として判定して、居住地別にユーザー数を集計すると、東京、大阪の二大都市圏への偏在が認められた。また、伊勢市において、観光客の実態調査に基づく居住地と比べると、Twitterユーザーのほうが二大都市圏により偏在する傾向が認められた。観光行動の分析を行う場合は、居住地ごとに分析するか、あるいは居住地の偏りを補正したうえで分析する必要があると考えられた。 次に、Twitter データについては、2015年4月下旬以降、付与される位置情報が大きく変化し、従来学術研究に活用されてきたポイント単位のデータの大部分はチェックインサービスを通したものに限られるようになり、分析可能な空間単位は実質的にポイントから市区町村へと変化した。伊勢志摩地域を事例としてポイント単位のデータで観光行動分析を行った結果、伊勢市内の特定の地域間の行動と鳥羽市や志摩市との間の行動が確認された。伊勢志摩地域の場合、前者は2015年4月以降では詳細に分析することは難しいが、後者は今後も問題なく分析できるものと考えられる。位置情報の変更の結果、ポイント単位のデータは、全体を代表するものではなくなったため、今後の市内移動の分析においては、市区町村単位のデータも併用する必要があると判断された。
著者
田中 誠也 磯田 弦 桐村 喬
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
pp.100269, 2016 (Released:2016-04-08)

近年,新たな観光資源としてアニメ作品の背景として利用された地点をめぐる「アニメ聖地巡礼」が注目を集め,ファンに呼応する形で地域も様々な施策を行っている.本報告では,SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)の1つであるツイッターの位置情報付きの投稿データを用いて,アニメ聖地と認められている地域内で巡礼者がどのような地点を訪れているのかを,時系列に見ていくことで地域の施策の動きと聖地巡礼者の動きの関係性を分析していく.
著者
峪口 有香子 岸江 信介 桐村 喬
出版者
計量国語学会
雑誌
計量国語学 (ISSN:04534611)
巻号頁・発行日
vol.31, no.8, pp.537-554, 2019-03-20 (Released:2020-03-20)
参考文献数
33

本稿では,Twitterからの方言語形抽出結果と,全国の高年層を対象に実施した方言調査の結果および全国の大学生を対象に実施した方言アンケート調査結果等との比較を行い,どのような違いがみられるかについて検討を行った.その結果,全国の高年層で使用される方言がTwitter上で忠実に反映されているとは言い難いが,Twitterデータの結果と大学生を対象としたアンケート調査結果とは,概ね一致した.この点で,Twitterデータをことばの地域差を見出すための資料として十分活用できる可能性があることが判明した.Twitterから得られた言語資料は,伝統方言の地域差の解明とまでは必ずしもいかないにしても,若者世代を中心に用いられる新しい方言や表現形式の分布のほか,「気づかない方言」などの地域差を知る手がかりとして,今後,有効活用が期待される.
著者
渡辺 隼矢 桐村 喬
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2018, 2018

<b>1.研究の背景と目的</b><br> 近年情報通信環境の発達により,人々が観光情報を入手する,または能動的に収集する手段はインターネットに移行しつつあり,それにより情報発信の担い手や情報伝達のスピードは大きく変化している.特に2010年代以降「インスタ映え」など写真投稿機能を有したソーシャル・ネットワーキング・サービス(以下SNS)が注目されており,実際にSNSに投稿された写真をきっかけとして観光行動が変化した事例も全国各地でみられている.観光地における場所イメージや観光客の関心は観光地理学における重要なトピックの1つであるが,SNSに投稿された写真データを分析することで,これら場所イメージや関心の急速な変化を把握することが可能である.そこで本研究はSNSの写真付き投稿データから,観光客の観光地に対する関心やイメージの時系列変化を分析・考察することを目的とする.<br> 対象地域は兵庫県朝来市の竹田城跡およびその周辺地域とする.竹田城跡は2006年の「日本100名城」の登録により,徐々に観光対象として認識されるようになった,比較的新しい観光地である.またメディアを通して雲海に浮かび上がる竹田城跡の姿が話題となり,2012年9月以降に「天空の城ブーム」を引き起こしたが,2015年以降ブームは衰退傾向にある.<br><br><b>2.データ</b><br> 本研究で使用するデータは2012年2月から2017年2月までの間に携帯電話やスマートフォンなどの端末から発信されたTwitter投稿データのうち,竹田城跡やその眺望スポットである立雲峡,また訪問の拠点となるJR竹田駅周辺などを含む地域(以下竹田地区)の位置情報が付与されたもの,および本文中に写真投稿を示すURL(https://twitter.com/~/photo/1またはhttps:// www. instagram.com~)を含む投稿を抽出した.投稿したユーザーが観光客か,もしくは竹田地区内に居住するまたは業務等で定期的に訪れる長期滞在者かを識別する手法としては,田中ほか(2015)のようなユーザーの一連の位置情報付き投稿からユーザーの生活圏を算出する手法もあるが,本研究では,簡易的に投稿のあった日数から識別する手法を利用した.算出の結果,期間内に7日以上投稿がみられたユーザーについては,投稿内容から長期滞在者であることが推測できた.それらのユーザーを除いた1,779ユーザーによる3,021件の写真付き投稿を本研究の分析対象とした.<br><br><b>3.分析結果</b><br> 平均月別写真投稿数は2012年19.9枚から2013年46.7枚,2014年93.8枚と増加した一方,それ以降は2015年44.0枚,2016年45.5枚となっている.また撮影のあったユーザー数も同様の変化を示している.<br> インターネット上より各投稿につき単一の画像が識別可能な投稿について,その撮影対象や構図から写真を分類したところ,竹田城跡から城郭・城外の風景を撮影した写真が占める割合は2012年から2015年まで継続して減少傾向であった一方,立雲峡など城跡外から竹田城跡を撮影した写真が占める割合は2012年から2016年まで継続して増加傾向であった.また雲海が撮影された写真が占める割合は,「天空の城ブーム」の発展・衰退にも関わらずほぼ一定であった.
著者
桐村 喬
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2009年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.221, 2009 (Released:2009-06-22)

I はじめに 東京大都市圏の中核をなす東京23区では,規制緩和などに伴い,1990年代後半以降,丸の内地区や六本木地区といった都心部において,超高層のオフィスビルの建設などの大規模再開発が進んだ.また,バブル経済崩壊以降の地価の下落に伴って,マンションの建設も盛んになったことで,都心部における人口が大きく増加するなど,「都心回帰」と総称される現象がみられるようになった(宮澤・阿部2005). 本研究の目的は,このような東京23区を対象とした社会地区分析を行なうことによって,現在の社会経済的な都市内部構造を解明することである.東京23区を対象とした同様の研究は,都市社会学や都市地理学の立場からなされてきた(高野1979; 倉沢・浅川2004).本研究では,これらの成果を受け継ぎつつ,直近の小地域統計に基づいた社会地区類型を示し,その空間的なパターンについて検討する.特に,資料の制約から,これまで日本ではあまり検討されてこなかった,都市内部における外国人居住の空間的パターンについて,東京都が独自に集計した国勢調査結果データを用いて若干の考察を加えたい. II 分析手法とデータ 本研究で用いる小地域統計は,2005年の国勢調査結果と,2006年の事業所・企業統計調査結果であり,基本的には東京都が独自に集計・公開している町丁目別のデータを利用する.このデータでは,国籍別の外国人人口や,外国人のいる世帯数など,東京都独自の集計項目が存在しているが,職業大分類別の就業者数など集計されていない項目もあり,これらについては総務省統計局が公開しているデータを利用する. これらのデータから,東京23区内の全町丁目別に,居住者に関する54変数と,事業所に関する44変数を作成し,分析データセットを作成する.この分析データセットに対して,各町丁目の類型化のために,自己組織化マップ(SOM)を適用する(桐村2007).SOMは,ニューラルネットワークの一種であり,適用するデータからのサンプリングを繰り返しながら学習することによって,元のデータの特徴を抽出するアルゴリズムである.このようなSOMは,多次元データの可視化や類型化などに利用され,地理的なデータへの適用も可能である.SOMを本研究の分析データセットに対して適用することで,居住者および事業所に関する各変数間の関係性を可視化するとともに,対象とした各町丁目の類型化が可能となる. III SOMの適用と社会地区類型の分布 SOMを適用し,Ward法によって分類した結果,11類型が得られた(図1).類型の分布や特徴をみる限り,国籍別の外国人比率など,外国人に関する変数によって特に特徴づけられた類型はみられなかったが,都心商業地区ホワイト・グレーカラー類型は東南アジアを除く各国の外国人比率が高く,都心部に位置する繁華街の周辺部に分布する傾向がみられた.また,足立区などの北部に点在する高密度ブルーカラー類型は,東アジアや東南アジア系の外国人比率が高く,母子世帯比率や高齢単身世帯比率,完全失業者率が高いなど,社会経済的な弱者の多い地区であるといえる.他の9類型が示す空間的なパターンや,各変数相互間の関係など,より詳細な検討が必要であるが,紙幅の都合上省略する. IV おわりに 本研究では,2000年代半ばの東京23区の社会経済的な属性の類型化を行なった.特に,外国人に関する変数を利用したことで,東京23区における外国人居住地の空間パターンについて検討できた.類型の分布をみる限りでは,従来から指摘されてきた,大規模オフィスやホワイトカラー層の居住する都心と,周辺に位置する東西のセクターといった基本的な都市構造に対して,外国人に関する変数が大きく寄与しているとは言い難い.しかしながら,国籍ごとに居住地は大きく異なり,他の変数との関係性について検討することによって,外国人居住の空間的パターンの実態が明らかになるものと考えられる. 参考文献 桐村 喬2007.小地域の地理的クラスタリング―外れ値処理と空間的スムージング―.GIS―理論と応用―15: 81-92. 倉沢 進・浅川達人2004『新編東京圏の社会地図1975-90』東京大学出版会. 高野岳彦1979.東京都区部における因子生態研究.東北地理31: 250-259. 宮澤 仁・阿部 隆2005.1990年代後半の東京都心部における人口回復と住民構成の変化―国勢調査小地域集計結果の分析から―.地理学評論78: 893-912.
著者
桐村 喬
出版者
Geographic Information Systems Association
雑誌
GIS-理論と応用 (ISSN:13405381)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.81-92, 2007-12-31 (Released:2009-05-29)
参考文献数
21
被引用文献数
2 2

There are two important problems in clustering of small area statistics: handling of outliers in small area statistics and complexity of spatial distribution of typologies created by classifying small areas. The purpose of this paper is to show a procedure of geographical clustering using small area statistics in order to solve these problems. According to the results of two examinations, Self-Organizing Maps (SOM) constraining the range of updating weights is better classifier than K-means. As to the issue of simplifying spatial distribution of typologies, we showed that there are relations between the level of the spatial smoothing and the spatial extent of the study area.
著者
桐村 喬 高木 正朗
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.90, no.5, pp.504-517, 2017-09-01 (Released:2022-03-02)
参考文献数
25

本研究の目的は,浄土真宗本願寺派の本山墓地である大谷本廟を対象として,大谷本廟に対する納骨および読経の申込者の分布から,本山に対する信者の宗教活動の空間構造の解明を試みるとともに,離郷門徒に注目して宗教的行動の特徴を明らかにすることである.分析の結果,合葬形式である祖壇への納骨の申込みは二大都市圏で多く,納骨堂である無量寿堂への納骨の申込みは非大都市圏で多い傾向が認められた.また,二大都市圏に居住する離郷門徒とそれ以外の門徒(在郷門徒)とで納骨先を集計すると,在郷門徒ほど祖壇納骨が多くなった.その背景として,無量寿堂に区画を持たない寺院の多さと,合葬形式である祖壇納骨の相対的な受容という要因が考えられた.さらに,読経申込みの頻度は本山のある京都府から近いほど高頻度になる傾向があり,宗教的行動の特徴よりも本山との近接性によって地域差が生じていると考えられた.
著者
桐村 喬
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2020, 2020

<p><b>I 研究目的・方法</b></p><p>日本では2月下旬以降にCOVID-19の感染拡大が進み,3月には「行動変容」が求められるようになり,大都市を含む都道府県を中心に,知事による週末の外出自粛要請が行われた.4月には日本政府による緊急事態宣言が出され,罰則のある外出禁止ではなく,"自粛"という形で,人々の移動が実質的に制限されてきた.5月以降,感染者の増加が弱まってきたことで,5月25日には緊急事態宣言が解除され,6月19日からは政府による都道府県間の移動の自粛要請も撤廃されたが,7月に入って再び感染者が大きく増加してきている.</p><p>そこで,本報告では,位置情報付きTwitterデータを利用して,2020年1月以降の日本におけるTwitterユーザーの移動状況の時系列変化の実態を明らかにし,それによって「行動変容」をはじめとする人々の日々の移動に関する変化の一端を示すことを目的とする.分析に用いるデータは,米国Twitter社が提供するAPIを通して収集できた,日本国内の位置情報が付与されたTwitterデータのうち,2020年1月6日〜7月26日までのデータである.</p><p><b>II 都道府県別のTwitterユーザーの移動状況</b></p><p>同一市区町村内でのみ移動するTwitterユーザーに注目し,Twitterユーザーに関する市区町村内移動ユーザー率を1日単位で求める.市区町村内移動ユーザー率は,ある1日において,1つの市区町村内でのみ投稿しているTwitterユーザーの数を,その市区町村内でその日に投稿したことがあるTwitterユーザーの総数で割ることによって算出される.ただし,1日の投稿件数が2件以上のTwitterユーザーを分析対象に絞る.市区町村内移動ユーザー率は,都道府県を含めた複数の市区町村で構成される空間単位で算出することもできる.</p><p>図1は,2月上・中旬の日曜日である2日・9日・16日の都道府県別の市区町村内移動ユーザー率の平均値を1としたときの,各日の値の比を示したものである.3月29日には,埼玉県,東京都,神奈川県,山梨県,大阪府で1.50を超え,市区町村内移動ユーザー率の上昇が,外出自粛要請が行われた地域を中心に生じていることがわかる.5月6日の時点では,全都道府県で2月上・中旬よりも高い状況は続いている.都道府県間の移動自粛要請の撤廃後の6月21日には1.00を下回る都道府県も増えてきたが,大都市圏の都道府県では依然として高く,7月26日には大阪府で1.44,東京都で1.39となっている.</p><p><b>III 東京・京阪神大都市圏でのTwitterユーザーの移動状況</b></p><p>東京・京阪神大都市圏における市区町村内移動ユーザー率をみると,特に東京において平日に低く,休日に高いパターンとなっている.2月下旬以降の両大都市圏では,休日を中心とする市区町村内移動ユーザー率の上昇が確認でき,いずれも平日に低く,休日に高いという明瞭なパターンが確認できる.3月29日から5月下旬までは,おおむね京阪神よりも東京のほうが高い傾向にある.5月16・17日を最後に,両大都市圏の市区町村内移動ユーザー率が80%を超えることはなくなっており,平日に低く,休日に高い傾向を維持しつつも,徐々に低下してきている.</p><p>次に,昼間を11〜16時台,夜間を0時台と19〜23時台として,それぞれの大都市圏全体と,各大都市圏内のうち,2015年の昼夜間人口比率が100以上の市区町村(中心地域)とそれ以外の市区町村(周辺地域)ごとに求めたユーザー数をもとに,夜間ユーザー数に対する昼間ユーザー数の比率を求める.2020年第2週(1月6〜12日)の平日を100とした指数を求めると,東京では第10週(3月2〜8日)に上昇し,周辺地域では中心地域よりも高い値を示した.第14週(3月30日〜4月5日)以降,特に周辺地域において大きく上昇し,昼間のユーザー数が相対的に多くなってきたものと考えられる.第22週(5月25〜31日)以降は低下傾向に転じているが,第30週(7月20〜26日)の時点では,まだ第2週の水準にまでは戻っていない.京阪神については,おおむね似た推移を示しているものの,値の上昇は東京ほどではない.</p>
著者
桐村 喬
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2016, 2016

<b>I 研究の背景・目的</b><br> 近年,晩婚化の進展と,団塊世代の高齢化などを背景として,単身世帯が大きく増加するとともに,その割合も増大してきている(藤森2010).単身世帯増加の傾向は大都市圏においてより顕著であり,学生や新社会人などをはじめとする若年層だけではなく,より高い年齢層の単身世帯が増加し,単身世帯の年齢は多様化している.大都市圏における単身世帯の大幅な増加の地理的な側面として,1990年代後半から続く都心部での人口回復現象(宮澤・阿部2005)や,女性の単身世帯の都心居住志向の強さ(中澤2012)など,都心部における増加がこれまでに指摘されている.<br> 一方で,マクロな視点からの分析は不足しており,大都市圏全体からみた単身世帯増加の地理的な動向にはまだ不明な点が多い.また,単身世帯に関する地域統計は少なく,単身世帯増加の要因としての人口構造以外の地理的な背景については十分には明らかにされていない.<br> そこで,本発表では,日本の三大都市圏を対象として,近年,単身世帯の年齢の多様化が進展している地域を市区町村単位で把握したうえで,単身世帯に関する詳細な小地域統計が利用できる1995年と2000年の2時点の分析から,単身世帯の年齢の多様化の地理的な背景を明らかにすることを試みる.<br><b>II 市区町村単位での分析-1990~2010年-</b><br> まず,すべての市区町村について,年齢階級別の単身世帯数を把握できる1990年から2010年の国勢調査結果を利用して,総務省の定義による2010年時点の三大都市圏のうちで単身化が進展する地域を世代ごとに把握する.<br> 単身化を捉える指標として,コーホート単位で,年齢階級別人口に占める単身世帯比率の変化率と,年齢階級別単身世帯数の増加率を求めた.年齢階級別人口に占める単身世帯の比率は,いずれの年齢階級,年次,大都市圏においても,都心部ほど高く,郊外に向かうにつれて低くなる傾向であり,若いほど都心部で若干高くなることを除けば,年齢階級による地域差は明確ではない.コーホート単位での年齢階級別単身世帯比率の変化から,三大都市圏ともに,郊外での中高年層の比率の高まりと,1995年以降の都心部における若年層の比率の高まりが確認された.都心部では,若年層の増加率も高く,単身世帯の大幅な流入による絶対的な増加が進んだものと考えられる.一方,郊外の中高年層の増加率はそれほど高くはなく,中高年層の単身化の速度は若年層に比べて緩やかであるといえる.<br><b>III 小地域単位での分析と若干の考察-1995~2000年-</b><br> 年齢階級別単身世帯数が把握できる1995年と2000年の町丁・字単位の小地域統計を用いて,2000年における単身世帯の年齢構成を類型化し,年齢構成ごとの地域特性から単身世帯の年齢の多様化の背景を検討する.類型化は,一般世帯総数に占める単身世帯比率や単身世帯の年齢階級別構成比などをもとに,SOM(自己組織化マップ)を用いて行った.SOMによって要約された指標値に基づき,さらに6クラスターに分類し,クラスターごとの年齢階級別単身世帯数・配偶関係別人口,住宅の建て方・所有別世帯数,DID化の時期について整理した.<br> 都心部に広がる若年・単身卓越クラスターでは,2000年に20~24歳になる単身世帯および未婚者の増加が顕著である.また,郊外に広がる青年・壮年クラスターにおいて,中高年・高齢層(2000年に50歳以上)の単身世帯の大きな増加のほか,若年・青年層(同25~39歳)の単身世帯の増加傾向も確認でき,郊外では単身世帯の年齢の多様化が進んでいることがわかる.次に,青年・壮年クラスターは,持ち家や一戸建が多い地域であるものの,1995年から2000年の間に6階建以上の共同住宅に住む世帯が大きく増加し,若年・単身卓越クラスターと類似した変化を示した.一方,郊外に分布する中高年クラスターは,青年・壮年クラスターと同様に一戸建に住む世帯が多いものの,世帯数の増加は大都市圏全体と比べて低調である.DID化の時期との関係をみれば,青年・壮年クラスター,中高年クラスターについては,1960年代後半~1970年代後半に市街化された地域に多く分布することが示された.開発から20~30年が経過し,高齢化と単身化が同時に進行してきたことがうかがえる.<br> 単身世帯の年齢の多様化が生じてきたのは,三大都市圏ともに,1960年代後半~1970年代後半に市街化された郊外である.郊外でも高層共同住宅の供給が多い地域では,若年の単身世帯の増加が目立ち,増加傾向を示す単身世帯が中高年・高齢を中心とする地域と,若年も含まれる地域とに二分されている.今後は,詳細なメカニズムの解明に向けて,よりミクロな視点による分析を進める予定である.<br>