- 著者
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芦田川 祐子
- 出版者
- 文教大学
- 雑誌
- 文学部紀要 (ISSN:09145729)
- 巻号頁・発行日
- vol.32, no.1, pp.45-65, 2018-09
本論文は、ウェルズのThe War of the Worldsについて、どのような諸世界の戦いが描かれているのかを、作品内に響く音を手がかりに考察する。火星人の立てる音は他者性が強調され、生身の軟らかい音もあるが、大部分は機械音で、生身と機械が一体化した存在として認識されることが多い。地球側を特徴づける音としては人声や車輪の音があるが、音声で意思疎通をする点では火星と必ずしも対立していない。火星人は武器を駆使して地球の音を圧倒し、死の静寂をもたらすが、バクテリアに敗れて自らも沈黙する。一方で火星人到着から侵略、死滅までを目撃する語り手の中でも世界の衝突が起きており、火星人に接近して音と沈黙、生と死の世界のせめぎ合いを体験した語り手は、現在の世界に過去と未来を重ねて見るようになる。こうして新たな世界の見方を獲得した語り手も、人間の限界を超えることはなく、それ故に世界の衝突が続くであろうことが示唆される。