ウィーダ(Ouida)著「フランダースの犬(A Dog of Flanders)」(1872)には、厳しい生活環境の中でネロとパトラッシュが断ち難い絆で結びつく過程、ネロの心を支える芸術の世界が描かれている。本稿では、物語冒頭で「ネロはアルデンヌ生まれ、パトラッシュはフランダースの出身」と告げる設定に着目し、現代にも継承される言語的文化的差異、すなわちフランス語地域のワロン地域にあるアルデンヌ、オランダ語圏であるフランダースの独立意識がウィーダ自身が旅した19世紀末には、より強く感じ取られていた可能性があり、「絆」で結ばれる異文化という眼差しがあった可能性を考察している。