著者
呉 恵卿
出版者
国際基督教大学
雑誌
教育研究 (ISSN:04523318)
巻号頁・発行日
no.61, pp.49-56, 2019-03

本稿では,民族学級が日本の公教育で施行,定着するまでの経緯について概観し,フィールド調査と民族学級関係者らとのインタビューを参考に,民族学級の現状について記述を行った。さらに,民族教育の場として民族学級が持つ限界と可能性についても考察を行った。在日コリアン児童にとって,民族学級が行われる「空間」に入る行為は,それ自体で新しい「民族」の世界へ進入することを意味する。子供たちは「本名」という新しい名前で互いを呼び合い,祖国と共有する歴史的遺産あるいは記憶を体験することによって新しい民族性に目覚めていく。アイデンティティの切り替えが行われる民族学級教室以外で本名を名乗る児童はいないことから,民族学級の成果に疑問を持つ視点も存在する。しかし,アイデンティティは可変的で複合的な性格を帯びている。児童の内面に吹き込まれた「民族」という種は,彼(女)らをめぐる様々な環境と相互作用しながら,アイデンティティの再構築に貢献することが期待される。

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