著者
呉 恵卿
出版者
国際基督教大学
雑誌
国際基督教大学学報. I-A 教育研究 = Educational Studies (ISSN:04523318)
巻号頁・発行日
vol.56, pp.119-127, 2014-03-31

本稿の狙いは,韓国の都心大型市場という空間が言語の芸術性を実現する場であり,ことば共同体として機能していることを明らかにすることである。市場に見られる談話型のうち,本稿では商品と関連した単純な情報を繰り返す「叫び型」談話に着目した。SPEAKINGモデルを援用して韓国の市場で収集した「叫び型」談話を提示し,他の談話型との違いについて述べた。さらに,「叫び型」談話をバーバルアートの側面から考察し,特定の音韻や文法,意味,韻律構造の反復によって実現される言語的並列構造が市場談話の中にどのように現れているのかを分析したところ,韓国の市場における「叫び型」談話は一定の押韻パターンを持ち,遊戯性に優れる詩的構造を持つことが示された。また,音律パターン,同一音韻の反復,語彙的・統語的変異という談話レベルの装置によって音楽性をもった一つのバーバルアートになっていることが明らかになった。
著者
呉 恵卿
出版者
国際基督教大学
雑誌
教育研究 (ISSN:04523318)
巻号頁・発行日
no.56, pp.119-127, 2014-03

本稿の狙いは,韓国の都心大型市場という空間が言語の芸術性を実現する場であり,ことば共同体として機能していることを明らかにすることである。市場に見られる談話型のうち,本稿では商品と関連した単純な情報を繰り返す「叫び型」談話に着目した。SPEAKINGモデルを援用して韓国の市場で収集した「叫び型」談話を提示し,他の談話型との違いについて述べた。さらに,「叫び型」談話をバーバルアートの側面から考察し,特定の音韻や文法,意味,韻律構造の反復によって実現される言語的並列構造が市場談話の中にどのように現れているのかを分析したところ,韓国の市場における「叫び型」談話は一定の押韻パターンを持ち,遊戯性に優れる詩的構造を持つことが示された。また,音律パターン,同一音韻の反復,語彙的・統語的変異という談話レベルの装置によって音楽性をもった一つのバーバルアートになっていることが明らかになった。Current research reveals that urban marketplaces function as specifically contextualized spaces that encourage linguistic creativity. Among the number of discourses performed in the Korean marketplace, the author focused on Vendor-Call, where sellers repeatedly cry out simple bits of information about the goods and prices in a loud voice. In Vendor-Call, the sellers use limited communicative resources, including both lexicon and syntactic structure. First, the author offers a definition of Vendor-Shouting discourse based on the ethnographic description of naturally occurring Vendor-Call in Korea using the SPEAKING model proposed by Hymes (1972). Next, the author considers the viability of Vendor-Call as a verbal art (Bauman 1977) by analyzing the way in which linguistic parallelism appears through the repetition of a specific phoneme, syntactic structure, specific meaning, and prosody. Consequently, the author elucidated the poetic verse structure of Vendor-Call with its specific rhyme, musical elements, and prosody patterns, repetition of like phonemes, variation in vocabulary and grammatical structure, and other linguistic devices, which are characterized by elements of linguistic play. Finally, the rhythmic structure created through repetition, linguistic parallelism, and musical effects strengthened through the co-occurrence of a nonverbal performance, such as rhythmical clapping and verbal performances accompanied by the tapping of feet, transforms Vendor-Call in the Korean marketplace into a verbal art.
著者
呉 恵卿
出版者
国際基督教大学
雑誌
教育研究 (ISSN:04523318)
巻号頁・発行日
no.61, pp.49-56, 2019-03

本稿では,民族学級が日本の公教育で施行,定着するまでの経緯について概観し,フィールド調査と民族学級関係者らとのインタビューを参考に,民族学級の現状について記述を行った。さらに,民族教育の場として民族学級が持つ限界と可能性についても考察を行った。在日コリアン児童にとって,民族学級が行われる「空間」に入る行為は,それ自体で新しい「民族」の世界へ進入することを意味する。子供たちは「本名」という新しい名前で互いを呼び合い,祖国と共有する歴史的遺産あるいは記憶を体験することによって新しい民族性に目覚めていく。アイデンティティの切り替えが行われる民族学級教室以外で本名を名乗る児童はいないことから,民族学級の成果に疑問を持つ視点も存在する。しかし,アイデンティティは可変的で複合的な性格を帯びている。児童の内面に吹き込まれた「民族」という種は,彼(女)らをめぐる様々な環境と相互作用しながら,アイデンティティの再構築に貢献することが期待される。
著者
金 明煕 呉 恵卿
雑誌
国際基督教大学学報. I-A 教育研究 = Educational Studies (ISSN:04523318)
巻号頁・発行日
no.62, pp.1-20, 2020-03-31

本稿の目的は,恩を施してくれた相手に対する感情的負債がある特定の場面で,韓国語学習者が韓国 の社会及び文化が持っている特殊性を理解し,語用論的な失敗なく,状況や場面に応じて適切な韓国語 の感謝表現を使用できるよう手助けすることである。感謝はそれ自体で連鎖的行為であり,言語的・非 言語的リソースを通して行われる。本稿では,言語的手段を通して伝達される感謝行為を感謝表現と定 義し,文化的に普遍と考えられる感謝行動が日本と韓国においてどのように表れているのかを社会言語 学の観点から分析,考察する。これまでの先行研究では,感謝ストラテジーが場面や状況に応じてどの ように異なって表れているのかについては,具体的な記述や分析が行われていない。しかし,ストラテ ジーは場面や状況に応じていつでも流動的に修正,変更される可能性があり,各場面に適切な戦略を使 用できない失敗は韓国語を勉強する学習者の語用論的な失敗に繋がることも排除できない。したがって 本稿では,社会的地位,親疎関係,負担程度など,様々な社会的要因を考慮した談話完成テスト(Discourse Completion Test,以下 DCT)を行い,DCT で抽出されたストラテジーの類型が集団・場面・社会的要因 によってどのように用いられているのかに重点をあて分析,考察を行っている。 The aims of the research are to help Japanese students who study Korean language to understand the uniqueness of the language in the situation of gratitude, a specific situation where speakers feel burdened emotionally, and to use the appropriate expressions in the situations in Korean without pragmatic failure. Gratitude is a speech act that occurs in a chain discourse. It can be performed with/through language and/or non-language resources. This research analyzes the common points and differences of the speech act in situations of gratitude between university students in Korea and Japan. Previous literature in this area in comparative sociolinguistics between Korea and Japan has not included an adequate description of the differences in the strategies used by both speech communities for showing gratitude in a variety of situations. The strategies, however, can be modified by circumstances in each culture. Failure to use the appropriate strategies can cause pragmatic frustration for Korean learners in Japan. This research employed a DCT reflecting factors of social status, degree of intimacy and degree of burden. The interaction of culture, situations, and social factors as well as the differences in expressions of gratitude in Korea and Japan were analyzed.