著者
辻 直人
出版者
和光大学現代人間学部
雑誌
和光大学現代人間学部紀要 = Bulletin of the Faculty of Human Studies (ISSN:18827292)
巻号頁・発行日
no.12, pp.31-46, 2019-03

本稿は、森有正の思想において「生活」という用語がどのように用いられているのか、森有正の生活概念を検討することを目的とする。森有正にとって、1950年以降亡くなるまでの約26年間パリで生活をすることが、思索の深まりと変貌を促した。森の言う生活は決意を伴うもの、自覚的に選び取るものであった。決意が出発を促す。出発から経験を深めていく場所として「生活」が捉えられていた。経験の基礎となるのが生活であり、森有正にとって、「生活」は思索の源泉であった。森はパリでそのような経験をしたが、日本から送られてきた雑誌に載っていた庶民の手記に、国籍や文明の違いに関係ない1人の人間としての姿を、日本人庶民にも見出した。森は、自分の仕事に徹することができれば、そこが自分にとってのパリである、とも語っている。経験の成熟と共に、もはや固有の場所としてのパリではなく、象徴的な場所と変わっていった。また、森はパリの生活に秘められた潜在的力を、フランスの学校教育に見出した。

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