- 著者
-
斎藤 信治
- 出版者
- 法学新報編集委員会
- 雑誌
- 法学新報 (ISSN:00096296)
- 巻号頁・発行日
- vol.122, no.1, pp.457-525, 2015-08
会社専務一家四人が惨殺・放火された袴田事件では、「残忍非道」・「鬼畜の所為」、反省もない等として、死刑が確定したが、冤罪との声も多かったところ(例、先駆的な高杉晋吾氏、緻密な本を書いた山本徹美氏、有益な本を編著の矢澤曻治氏)、弁護団・諸支援団体の粘り強い活動と大変な尽力もあり、平成二六年三月二七日に静岡地裁が再審開始(また、死刑及び拘置の執行停止)を決定し、袴田巌氏は四八年振りに釈放され、同氏を気丈に守り抜いてきた姉秀子氏の世話の下、快方に向かっている。このことは、問題が多く且つ深刻過ぎた静岡県警をかつて殆ど盲信したマスコミによって、明るいニュースのように報じられている。しかし、依然、今度は東京高裁を舞台に、再審開始の当否が、厳しく争われている。 本稿は、今日から見ると、袴田氏を有罪とした司法判断には極めて問題が多く、もはや維持できないことを、先行諸業績等に負いつつ、独断も交え、多岐にわたり詳説している。なお、疑問点も目立つ中、多くの令名ある法曹も関与しながら、なぜ死刑冤罪が三審一致で生まれ、久しく維持されたのかを考え、一つには、検察の在り方が根本から問われていることを指摘する。