著者
斎藤 元秀
出版者
法学新報編集委員会
雑誌
法学新報 (ISSN:00096296)
巻号頁・発行日
vol.123, no.7, pp.383-410, 2017-01-16

二〇一四年三月、ロシアがウクライナのクリミア半島を併合し、国際社会の厳しい批判をよんだ。米国がロシアに対して厳しい経済制裁を実施した結果、米露関係は悪化し、一九七三年以来最悪の状態にある。しかし、中国は巧妙に立ち回り、ロシアとの友好関係の維持に努めている。 ウクライナ危機については、リチャード・サクワ、アンドリュー・ウイルソン、ラジャン・メノン、ユージン・ルマーの研究をはじめ、これまでさまざまな分析がなされている。しかし、断片的な分析はあるものの、中露関係の文脈でクリミア危機を体系的に考察した研究はほとんど見当たらない。 本稿で明らかにしたいのは、次の諸点である。⑴ロシアはウクライナをどのように位置づけているか、⑵中国にとってウクライナの重要性とは何か、⑶プーチン大統領はなぜクリミア併合(編入)を決意し、いかなるプロセスを経てクリミア併合作戦を実施したのか、⑷中国はクリミア併合をどのように考え、クリミア併合後、中露関係はどのように展開したのか、⑸予見しうる将来における中露関係の展望はどうか。
著者
新田 秀樹
出版者
法学新報編集委員会
雑誌
法学新報 (ISSN:00096296)
巻号頁・発行日
vol.122, no.11, pp.1-30, 2016-03

本稿は、障がい者制度改革推進会議総合福祉部会が取りまとめた骨格提言(障害者総合福祉法)と実際に成立した障害者総合支援法の異同を確認・評価した上で、法の目的・理念に係る規定が障害者自立支援法から総合支援法に至る改正経緯の中でどのような変遷を辿ったかを明らかにすることを通じて、今後の障害者福祉領域の立法政策の在り方を検討するに当たっての示唆を得ることを目的とする。得られた示唆は次のとおりである。 第一に、総合福祉部会が骨格提言を取りまとめるまでのプロセスは、当事者たる障害者の代表も参加した議論を経ての意見の積み上げ・集約方式による法改正の手法として、今後目指すべき望ましい法改正の一つの在り方の先例になり得る。 第二に、今回の総合支援法の制定プロセスにおいても、国は、給付の「権利化」には、そのことにより財源的保障を求められやすくなることを恐れて、極めて慎重であることが、改めて確認できた。 第三に、在るべき障害者福祉法制を目指して、二〇一二年改正の成果である目的規定の深化や基本理念の明示を、今後の障害者福祉施策の展開や次の法改正の方向性を領導するための指針として活用することを考える必要がある。
著者
崔 長根
出版者
法学新報編集委員会
雑誌
法学新報 (ISSN:00096296)
巻号頁・発行日
vol.121, no.9・10, pp.259-287, 2015-03-10

本研究は、独島の名称が朝鮮初中期の「于山島」から一九〇〇年の勅令四一号の「石島」に変更された経緯について考察したものである。「勅令四一号」をもって「鬱陵全島、竹島、石島」鬱陵郡の管轄区域として行政措置がなされていた。ここで「石島」は今の独島のことをいう。しかし実際に古文献、古地図によると、朝鮮初期・中期は現在の独島を于山島と表した。ところが、朝鮮後期に入ると、「于山」という名称がどの島を指すのかという混乱を経験した。その過程を経て、日本人の不法的東海渡航が領土的主権侵害を憂慮して勅令四一号をもって領土を保全する措置を取った。その際に現在の「デッソム」は「竹島」という名称で完全に定着していた。また、今の観音島は「島項」という名称で定着していた。それから、今の独島は鬱島郡の行政名称では「独島」、中央政府の官撰の名称では「石島」として固着していた。これらのことから朝鮮初期の「于山島」が中期・後期には誤って「デッソム」のことを指したりしたが、最終的に朝鮮の朝廷が勅令四一号をもって問題の「于山島」という名称を完全に抛棄して「島」としたのである。その後日本が「竹島」という名称で編入措置を取った後、韓国はそれを否定した。
著者
秦 公正
出版者
法学新報編集委員会
雑誌
法学新報 (ISSN:00096296)
巻号頁・発行日
vol.123, no.3-4, pp.105-129, 2016-08-30

共有物分割の訴えにおいて全面的価格賠償の方法による分割を認めた最判平成八年一〇月三一日民集五〇巻九号二五六三頁の登場から二〇年が経過しようとしている。その後の裁判例は、全面的価格賠償の方法による分割を命じる場合に、持分にかわる賠償金の支払いを確保する観点から裁判所の裁量による多様な判決を認めるに至った。具体的には、当事者の申立て(訴え)なしで、現物取得者に賠償金の支払いを命じるもの、持分の移転と賠償金の支払いとの引換給付を命じるもの、あるいは、賠償金の支払いを条件に現物の単独所有を命じるものなどである。本研究は、共有物分割の訴えにおいて全面的価格賠償の方法による分割が問題となった近時の裁判例を整理して、その動向を明らかにすることを目的とする。
著者
中西 又三
出版者
法学新報編集委員会
雑誌
法学新報 (ISSN:00096296)
巻号頁・発行日
vol.121, no.9, pp.381-440, 2015-03

1 はじめに 学校教育法・国立学校法人法一部改正法の制定過程の概略等及び本稿の論述の範囲を記す。2 学校教育法等の改正 改正の内容及び改正の理由を項目的に整理した。3 学校教育法等改正の問題点 次の問題点を指摘した。(1)教授会を学長に対して「意見を述べる機関」とし、その意見が学長を拘束しないとする文科省の見解は理由がない。(2)教授会が「意見を述べる」事項の限定は、教授会権限等の歴史的沿革からして「大学の自治」=教授会自治に適合しない。(3)法定ないし学長が定めた意見聴取事項以外の事項に関する教授会の意見提出について学長の取扱いに問題がある。(4)学校教育法施行規則一四四条の削除は学生事項に関する教授会権限の削減という側面がある。(5)副学長の執行機関化については検討すべき問題がある。(6)内規の総点検・見直し 文科省の求める内容方法に疑問がある。4 国立大学法人法の改正の概略と問題点 組織の特色を概観した後(1)経営協議会の外部委員の増員、(2)教育研究評議会の委員に執行機能をもった副学長がなること、(3)学長選考方法の変更(学長選考会議による選考基準の設定、選考過程の透明性の要求)が持つ問題点を指摘した。5 まとめ 今次改正は大学の自治に棹さすものであるが、学問の自由・ 大学の自治は引き続き追求されるべきである。
著者
中川 壽之
出版者
法学新報編集委員会
雑誌
法学新報 (ISSN:00096296)
巻号頁・発行日
vol.121, no.9・10, pp.349-380, 2015-03-10

本稿は、日本近代法制史上の重要な論点の一つである明治二〇年代前半に起こった法典論争を考察の対象とし、民法・商法の施行をめぐるこの論争における延期派対断行派の構図のうちから特に延期派に視点をあて、その軌跡をたどる中で、(一)延期派が誰を対象として活動を展開していたか、(二)延期派の意見書が論争の過程でどのような意味合いを持つものであったか、断行派のそれとの比較から検討し、(三)延期派が具体的にめざしていたものが何であったか、この三つの課題の解明を試みたものである。 (一)については延期派の活動は世論ではなく政府の諸大臣をはじめ「朝野ノ名士」を対象として専ら展開していたこと、(二)に関しては、それゆえ延期派の意見書は政府や有力者への手段として戦略的に用いられ、断行派が各種の機関誌を通じて世論に訴えかけた戦術とは明確な違いがあったこと、そして(三)では政府による法典調査会の設置以前、すなわち第三回帝国議会の段階で延期派が「臨時法典修正局」の設置を建議し、その実現に向けて官制草案の作成に着手していたことを明らかにした。
著者
川田 知子
出版者
法学新報編集委員会
雑誌
法学新報 (ISSN:00096296)
巻号頁・発行日
vol.122, no.1・2, pp.187-214, 2015-08-03

本稿は、労働契約法一八条「無期転換ルール」の特例を定める法改正及び法整備を批判的に検討するものである。 一つは、二〇一三(平成二五)年一二月五日に成立した「研究開発システムの改革の推進等による研究開発能力の強化及び研究開発等の効率的推進等に関する法律及び大学の教員等の任期に関する法律の一部を改正する法律」である。これによって、一定の研究者や技術者等については、労働契約法一八条に基づく無期労働契約への転換要件となる五年の通算期間が一〇年に延長されることとなった。もう一つは、二〇一四(平成二六)年一一月二一日に成立した「専門的知識等を有する有期雇用労働者等に関する特別措置法」である。同法は、高度な専門的知識などを持つ有期雇用労働者および定年後引き続き雇用される有期雇用労働者が、その能力を有効に発揮できるよう、事業主が雇用管理に関する特別の措置を行う場合に、労働契約法一八条の無期転換ルールに特例を設けたものである。 これらの法律は、無期転換ルールの特例の対象を拡大し、同ルールの空洞化をもたらすおそれがある。そのため、本稿は、これらの法律について、立法の背景及び経緯を踏まえて批判的に検討するものである。
著者
奥田 安弘
出版者
法学新報編集委員会
雑誌
法学新報 (ISSN:00096296)
巻号頁・発行日
vol.124, no.9-10, pp.51-125, 2018-03-05

本稿は、平成二八年一二月一六日に公布された養子縁組あっせん法の意義と課題を考察するものである。まず、養子縁組あっせんの法体系上の位置づけを考える。民間事業者による養子縁組あっせんは、社会福祉法上の第二種社会福祉事業とされてきたが、届出だけが求められ、罰則がないこともあり、これまで十分な監督がなされてきたとは言い難い。この度成立した養子縁組あっせん法は、これを届出制から許可制に変更するものであり、それ自体は評価できるが、あっせん業務の質を確保するという面では課題が多い。とくに実父母からの同意に十分な熟慮期間が設けられていないことは、後に同意の撤回を招くおそれがあり、児童の利益を保護するうえで問題である。現に、養親希望者に児童が引き渡された後に、最終的な同意の確認がなかったとして、実母への返還に至るケースが見られる。また国際養子縁組の場合は、児童の取戻し自体が事実上不可能となってしまうが、養子縁組あっせん法では、そのような国際養子縁組が完全に排除されていない点が問題と思われる。最後に、これらと同様に、あっせん業務の質を確保するうえで問題と思われる点を幾つか取り上げる。
著者
竹内 雅俊
出版者
法学新報編集委員会
雑誌
法学新報 (ISSN:00096296)
巻号頁・発行日
vol.123, no.7, pp.137-154, 2017-01-16

一九九〇年代中頃から二〇〇〇年代初頭にかけ、特に米国の学会を中心に国際法学の方法論、とりわけ学際的なアプローチが再び注目される機会が増えた。これらは、法学とは異なる要素(○○の部分)を加えることにより、国際紛争や国際法を通じた解決の理解がより深められることが期待された。 しかしながら一方で、これら学際的アプローチには、様々な批判が向けられ、その存在意義が問われている。本稿は、これら批判を念頭におきつつ、国際法学におけるこの潮流を素描することを目的とする。
著者
星野 智
出版者
法学新報編集委員会
雑誌
法学新報 (ISSN:00096296)
巻号頁・発行日
vol.121, no.9・10, pp.473-498, 2015-03-10

一九一四年に勃発した第一次世界大戦は、覇権国家論の観点からみると、この戦争はイギリス帝国の覇権に対するドイツ帝国の挑戦であるというように捉えられるかもしれない。実際問題として、ドイツにおける一八九八年の艦隊法の制定以後に英独間で展開された建艦競争は、第一次世界大戦前における英独間の大きな対立点の一つであった。そして第一次世界大戦前の英独間のもう一つの対立点は、バグダッド鉄道建設と石油資源に関するものであった。当時、イギリスもドイツも自国内に石油資源を保有していなかったため、北メソポタミアの油田は両大国の利害関心の的となっていた。 第一次世界大戦前にイギリスとドイツは海軍における軍拡競争を展開していたが、その背後では石油資源をめぐって、攻防と協議が繰り広げられていた。大戦勃発とともにイギリスとドイツとの間の協議は最終的には失敗に終わった。「石油戦争」をめぐる問題は、第二次世界大戦においても、連合国と同盟国間での大きな対立点であり、今日においても、二〇〇三年のイラク戦争をめぐる問題に顕在化している。本稿は、第一次世界大戦前のバクダッド鉄道建設計画とメソポタミアの石油資源をめぐるイギリスとドイツとの攻防について検討するものである。
著者
武智 秀之
出版者
法学新報編集委員会
雑誌
法学新報 (ISSN:00096296)
巻号頁・発行日
vol.123, no.8, pp.183-225, 2017-01-31

本稿では和田博雄に光を当てることで、その思考・判断・決定の環境を明らかにする。和田博雄の歩んだ軌跡を素材としてその合理的な思考と精神をスケッチすることで、政治学・行政学の研究に寄与したいと考えている。まず農林省の重要法案、とくに小作調停法と農地調整法に焦点を当て、石黒忠篤と和田博雄の農政観、農林省農務局の組織哲学について論じる。次に内閣調査局での企画立案、企画院への再編、企画院事件について説明する。さらに農政局長として関わった第一次農政改革、農林大臣として関わった第二次農地改革について論述する。片山哲内閣で就任した経済安定本部長官としての活動と経済復興への貢献を説明する。最後に日本社会党に入党してからの夢と挫折の軌跡を描き、合理的な思考と精神を持ち、知性と理性の人であるが故に孤高な政治生活を送ったリベラリストの姿を明らかにする。
著者
斎藤 元秀
出版者
法学新報編集委員会
雑誌
法学新報 (ISSN:00096296)
巻号頁・発行日
vol.123, no.7, pp.383-410, 2017-01-16

二〇一四年三月、ロシアがウクライナのクリミア半島を併合し、国際社会の厳しい批判をよんだ。米国がロシアに対して厳しい経済制裁を実施した結果、米露関係は悪化し、一九七三年以来最悪の状態にある。しかし、中国は巧妙に立ち回り、ロシアとの友好関係の維持に努めている。 ウクライナ危機については、リチャード・サクワ、アンドリュー・ウイルソン、ラジャン・メノン、ユージン・ルマーの研究をはじめ、これまでさまざまな分析がなされている。しかし、断片的な分析はあるものの、中露関係の文脈でクリミア危機を体系的に考察した研究はほとんど見当たらない。 本稿で明らかにしたいのは、次の諸点である。⑴ロシアはウクライナをどのように位置づけているか、⑵中国にとってウクライナの重要性とは何か、⑶プーチン大統領はなぜクリミア併合(編入)を決意し、いかなるプロセスを経てクリミア併合作戦を実施したのか、⑷中国はクリミア併合をどのように考え、クリミア併合後、中露関係はどのように展開したのか、⑸予見しうる将来における中露関係の展望はどうか。
著者
島村 直幸
出版者
法学新報編集委員会
雑誌
法学新報 (ISSN:00096296)
巻号頁・発行日
vol.123, no.7, pp.517-546, 2017-01-16

古代から中世、近代から現代までの帝国の興亡史を描く。古代のローマ帝国や中華帝国は、一定の地域に限定された「地域帝国」であった。イスラーム帝国は、「陸の帝国」であった。これに対して、近代以降のヨーロッパの大国は、「海の帝国」であった。ただし、ヨーロッパ地域では、同時に「主権国家」「国民国家」であった。現代のアメリカは、「植民地を持たない帝国」「非公式の帝国」である。ソ連邦の崩壊で、「公式帝国の時代」は終わった。ただし、中国を「残された最後の陸の帝国」と見ることもできる。
著者
富井 幸雄
出版者
法学新報編集委員会
雑誌
法学新報 (ISSN:00096296)
巻号頁・発行日
vol.123, no.8, pp.125-182, 2017-01

アメリカの移民退去手続は刑事司法手続に類似しており、移民裁判所(法務省)での聴聞を設けている。九・一一直後に法務長官の発したクレッピィ通達は、移民判事が安全保障上の特別の利益があると判断したなら、この退去聴聞にメディアを含む一般人の傍聴を禁止できるとした。これは、表現の自由を保障したアメリカ憲法修正第一条に反さないか。最高裁は一九八〇年のリッチモンド新聞社事件で、経験と論理のテストを打ち立てて、それが満たされる刑事裁判の公開や傍聴は公的アクセスとして同条で保障されると判断した。このテストが行政手続に分類される退去聴聞にも適用されて、同条の保障が及ぶか。最高裁の判例はないけれども、連邦控訴裁判所は、二〇〇二年のほぼ同時期にクレッピィ通達を合憲とも違憲とも判断している。移民法は安全保障法としての側面があり、外国人テロリスト送還裁判所を創設したり、政府側に聴聞にかけられている外国人がアクセスできない秘密の証拠を使用したりする手続を法定している。国際テロ対策が課題となるなか、安全保障と人権のバランスが出入国管理に要求される視点はわが国にも示唆的である。
著者
藤巻 裕之
出版者
法学新報編集委員会
雑誌
法学新報 (ISSN:00096296)
巻号頁・発行日
vol.123, no.7, pp.485-499, 2017-01

冷戦期、米国とソヴィエト連邦はそれぞれ地域機構を作ることで安全保障環境を構築した。両陣営は、第三次世界大戦を未然に防ぐために政治/安全保障面と経済面において両陣営内に地域主義の「網」を張り巡らせた。 本稿の問題意識は、冷戦期における米ソ両陣営の地域主義は何を目指したのか、にある。冷戦期にこれら両陣営の地域主義が直接的に対決する場面がなかったのは、政治/安全保障において、米ソの地域主義の目的のすれ違いがNATOとWTOに深刻な安全保障上の対立関係を作り出さなかったのではないだろうか。 本稿では、米ソの主導した地域主義に新たな視覚を提供するために、冷戦の起源を辿り、修正主義の立場から冷戦期の米ソ地域主義の目的の相違を比較検討する。そのために、第一章では冷戦の起源を伝統主義、修正主義、ポスト修正主義に整理する、第二章において安全保障面ではNATOとWTO、経済面においてはWTO/IMFとCOMECONなど米ソ地域主義の比較を試みる。第三章においては、米ソ地域主義がそれぞれ何を目指していたのかを明らかにしたい。
著者
栗田 尚弥
出版者
法学新報編集委員会
雑誌
法学新報 (ISSN:00096296)
巻号頁・発行日
vol.121, no.9・10, pp.185-232, 2015-03-10

本稿は、幕末の海防論者であり、陽明学者である平戸藩士葉山佐内の思想について分析するとともに、その思想の吉田松陰への影響について論じたものである。著者は、海防論、対外観、陽明学(王陽明および大塩平八郎)に視点を置いて佐内の思想を見るとともに、「西洋兵学への開眼」、「対外観の変化」、「民政の重視」、「陽明学との邂逅」の四点について、佐内の思想が松陰に与えた影響について論じている。これまで、平戸留学が吉田松陰の思想に大きな影響を及ぼしたということはしばしば論じられたきたが、葉山佐内との関係性において論じられたものはほとんどなく、佐内自体の研究も極めて少なかった。本稿は、佐内の思想の持つ合理性、脱中華思想性、平等性を論証するとともに、この思想を受容することによって、松陰が単なる伝統的兵学者から「思想家」へと脱皮したことを明らかにした。