著者
久保田 義弘
出版者
札幌学院大学総合研究所 = Research Institute of Sapporo Gakuin University
雑誌
札幌学院大学経済論集 = Sapporo Gakuin University Review of Economics (ISSN:18848974)
巻号頁・発行日
no.16, pp.1-121, 2020-02-29

本稿では,正義を実現する国家とはどのような国家像であるのかを考察する。その際,プラトンが対話編『国家』で展開する正義論ならびに国制(政治体制)を手がかりにしてその国家像について検討する。 本稿の第2章では,第1章のプラトンの哲学あるいは哲学者についての現実認識を踏えて,国制の混乱・崩壊の原因が支配者層を構成する人々の間の支配権を巡る抗争にあるというプラトンの想定を基盤とし,支配者間の団結・連帯を実現するための要件を前提にし,プラトンが最も強く押し出している理知的な支配者とその支配者を社会において育成するための教育プログラムについて考察する。プラトンの成長段階に応じた教育プログラムの特徴は,次の6段階の成長段階(1)幼児から10歳頃(教養教育ならびに体育教育(健康管理教育))(2)10歳頃から20歳頃(学術教育)(3)20歳頃から30歳頃(研修教育(予選された者の教育))(4)30歳から35歳頃(哲学的問答法の教育(言論修練教育))(5)35歳頃から50歳頃(体験教育)(6)50歳以後(支配者として活躍あるいは哲学に専念)に分けて,支配者(守護者)を踏まえた教育プログラムで,育成される支配者は,理知的で,かつ守護者(軍人)としての体験教育を受けた支配者である。政務を審議し計画する支配者(政治家)の職位につく年齢の50歳超まで,支配者としての教育を受けた人間である。これがプラトンの理想とした国制,すなわち哲人王制のもとでの支配者・統治者である。このプラトンの支配者養成の教育プログラムを検討する。 本稿の第3章では,正義について,様々な観点から考察する。ギリシャ人の正義,正義の社会的有用性,正義と知者,正義と支配者,正義と利益,正義と分を守る,正義と国家,正義と善,正義と幸福などについて考察し,その中でも,正義と国制(最優秀支配制,寡頭制,民主制,ならびに僭主独裁制)の関係を検討し,特に,ソフィストと知られるトラシュマコスの正義論(強者の利益が正しい)を巡って,正義が支配者(現実の国制)にとって何であったのかについてに認識を深める。 本稿の第4章では,プラトンが正義とは何かを明らかにするために,新たに建設された国家を取り上げ,その国家は,金儲けする階層(農民や,鍛冶職人,織物職人など),支配者層(政策を計画し審議する人々),そして支配者を補助する階層(軍人)から構成されるが,それぞれの階層が自身の職務に専念し,他の階層の職務(仕事)を侵さないことが正義であり,そして,プラトンが新たに建設する国家では,知恵,勇気,節制,そして正義が実現し,さらにその国家で生活する各個人おいても4つの徳が実現することを説明する。論文

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CiNii 論文 -  プラトンの『国家』における支配,統治ならびに公共部門─知識人の人間観ならびに社会観(8)─ https://t.co/HkQx0AYkeJ #CiNii
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